岡村の「とんかつ美とんさくらい」で展示会を開く藍染デザイナー 杉戸 裕隆さん 金沢区在住 45歳
「暮らしの中の美」求めて
○…「染物というよりも、藍色の絵の具で布地をキャンバスに絵を描いている感覚」。テキスタイルデザイナーや老舗工房の職人見習いなど紆余曲折を経て、自身の藍染表現を追求してきた。現在はサラリーマンとして働きつつ、実家の隅に工房スペースを設け、「染裕(そめひろ)」の名で創作に励む。「工夫さえすれば、狭いスペースでも結構なことができるんです」と笑顔を見せる。
○…絵が得意な少年だった。コンクールに出せば表彰され、教師から美術の道を勧められたことも。しかし夢中になったのはサッカー。「高2までやったが、ずっとベンチ組でした」と苦笑い。一方で中学生時代から、各地の美術館や工芸館を巡り、美的感覚を養っていく。中でも”入ってくるもの”があったのは「染物」。「絵描きになりたいと思ったこともあった。でも自分にとって染物ののれんが風で揺れる風景も絵画だった。暮らしに密着している美があった」。染物への憧れを強め、美大に進学する。
○…「まさかネクタイを締めて、満員電車に乗るような仕事をするとは思わなかった」と笑う。妻子を抱え、藍染だけでは食べていけずに始めた会社員生活。しかし、そこには工房に籠っていては体験することが出来ない世界があった。「学ぶところが多いんですよねえ」としみじみ。野毛で初対面の会社員と酒を酌み交わす面白さも知った。藍染と向き合うのは平日、会社から帰宅しての2、3時間と週末と祭日という限られた時間。「この生活が、バランスが取れている。吸収したことを藍染に還元していきたい」と熱を込める。
○…親交のある「さくらい」での展示には映画「FOUJITA」のため制作した渾身の筒描を掲げる。「良いモノができたなら、多くの人に見てもらわなきゃ」。染裕(そめひろ)の背中を押すのは、同店の堀内社長の言葉だ。ルーブル美術館に藍染作品を掲げるという夢に向かい、あくまで暮らしの中にある「生ある美」を追い求める。
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