「治療薬の多くは保険適用外」
「妊娠イコール出産ではない」-。ある女性の切実な訴えだ。不育症を抱える女性たちは宿った命との別れの辛さを幾度と無く経験してきた。だが決して稀なケースではない。厚生労働省の調べで不育症は、妊娠した女性の約16人に1人という高い割合であることがわかった。ごく身近な問題なのだ。
今では不育症研究が進み、適切な治療をすれば80%以上の確率で出産できるという。しかし、女性たちを取り巻く環境は決して恵まれたものではない。特に費用面については厳しい現実に直面する。検査だけで1回数万円、治療に必要な薬も保険適用外なものが多く出産までに180万円も費用がかかる場合がある。お金の問題で出産を諦める人も多いという。不妊症と違い助成制度を設けている自治体は全国でもごく僅か。現状を探った。
不育症に取り組む自治体の対応は様々だ。川崎市ではまだ助成制度実施の予定は無い。しかし、不妊症と合わせ不育症の相談室を設置するなど、周知に向けての取り組みは始まっている。市では不育症の助成についても「今後の検討課題として捉えている」と話す。
一方で全国に先駆け、不育症の治療に助成制度を設けた市がある。岡山県真庭市。この市はある女性の切実な訴えが市を動かした。
真庭市に住む女性(45)は子どもが欲しいと長年願い40歳にして初めて妊娠した。しかし、数ヵ月後に死産。その後も死産を繰り返し、検査の結果不育症ということがわかった。年齢的な問題もあり、医師から勧められたのは妊娠前からの治療。女性は「子どもが産めるなら」と治療を始めたが、すぐに費用の問題に直面した。治療に使われる薬は保険適用外のものが多く、交通費などと合わせると月8万円以上の費用が女性とその家族に重くのしかかった。そして4ヵ月目で治療を断念した。「本当に辛く苦しい決断だった」。
女性は市役所を訪れ、今までの流産体験や精神的・経済的負担の大きさなどを話し、助成制度を訴えた。その切実な思いに心を打たれた市の職員たちは独自に不育症を勉強し調査。その結果、市内で何人もこの病気に苦しんでいる女性がいるという実態を確認した。その殆どは、高額な治療費に悩まされていたという。市は、助成に対する検討会を開き議論を重ねた結果、平成22年度から全国に先駆け上限30万円の助成が実現した。対象条件があるものの今までにこの制度を2人が利用したという。
助成のきっかけを作った女性にはまだ子どもは生まれていない。しかし「自分のことのようにうれしい。未来に繋げることができたと思う」と話す。
次回は市民団体「不育症そだってねっと」の活動について紹介する。
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12月20日