第2次世界大戦後のドイツで伝染病(発疹チフス)の治療に尽力した八王子出身の医師、肥沼信次(こえぬまのぶつぐ)(1908-46)についてのイベントが2月14日(日)、明神町で行われる。昨今、徐々に知れわたりつつある彼の功績を、学生によるドイツ訪問のレポートなどと共に紹介する。
功績 長年知られず
主催は「肥沼信次博士の功績を後世に残す会」(塚本回子会長)。塚本さんが肥沼医師について知ったのは11年前のこと。市内のセミナーで話を聞いて心を打たれた。「彼が『誰かのために生きてこそ人生の価値がある(アインシュタイン)』を実践した点。また、ベルリンの壁の影響で彼の活動、死去の情報が40年以上にわたり日本へ届かなかった悲惨な点。この2点がとても印象的でした」。塚本さんは感動のあまり、その年のうちに仲間を連れドイツまで墓参りに行ったそう。
今回のイベントは塚本さんが「10年間温めてきた」ものという。昨年夏、テレビ東京の番組で肥沼医師が紹介された。また秋には彼を主人公にした絵本「ヴリーツェンの風のなかで」(なかむらちゑ作)が出版された。11月1日に発行された八王子市の広報紙には、石森孝志市長も絵本にちなみ肥沼医師の功績について語っている。少しずつ、世間で彼の名前が聞かれるようになり今回、塚本さんは構想していたイベントを形にすることに。「来年、八王子市は市制100周年を迎えます。これからの100年につなげていくために、肥沼信次を忘れてはいけないと思います」
「行くなら今」現地へ中央大学・荒川さん
なお、イベントは塚本さんが肥沼医師の生涯について紹介する他、中央大学総合政策学部3年の荒川あずささんによるヴリーツェンの現地報告も行われる。
荒川さんは昨年4月、たまたま過去の新聞記事(2011年8月東京新聞)で肥沼医師の存在を知った。またその活躍があまり日本で知られていないことについて「興奮を覚えた」そう。そして、1995年に出版された肥沼医師に関する書籍を読み「本当に今も現地で親しまれているのか?」と疑問を抱き昨年9月、ドイツへ。「戦後70年」「大学が八王子(中央大学多摩キャンパス=東中野)」という点に縁も感じ、「行くなら今(在学中)」と決断をしたという。
14日にイベント
「現地の高校生らの話を聞いて、本当に戦後70年以上経った今でも、肥沼医師が親しまれていると実感できました。彼はヴリーツェンの人々の胸にいつまでも生き続ける日本の医師です」と荒川さん。14日のイベントについては「地元の身近な歴史に触れると、思わず世界が開けたりします」と来場を呼び掛けている。
イベントは午後2時から4時まで。会場は八王子労政会館(明神町3の5の1)。参加費は1人500円(資料及び茶菓子代)。問い合わせは塚本さん【電話】042・664・9539へ。
八王子出身 37才で死去
◆肥沼信次(こえぬまのぶつぐ)/1908年、現在の八王子市中町にあった肥沼医院の長男として生まれる。日本医科大学を卒業後、放射線の研究者として東京大学へ。そしてベルリン大学伝染病研究所に入所。博士号と共に東洋人として初の同大学教授の資格を取得する。戦中もドイツに留まり、戦後は東ドイツのヴリーツェンで発疹チフスの治療に専念する。寝る間も惜しんで対応を続け、当時の看護師によると「しらみだらけの重症の患者を治療していました」という。多くの人々の命を救ったが、自らもチフスに感染し1946年3月、37歳の若さで死去する。1994年にはヴリーツェンの名誉市民となっている。
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