原爆が投下された長崎県にある浦上天主堂を舞台に、被爆からの再生と平和をテーマにした新作能「長崎の聖母」(作/故・多田富雄さん)。同作品のシテ(=主人公)を務め、演出も手掛けるのが、緑ケ丘在住の能楽師・清水寛二さん(62)だ。今年5月には、アメリカ・ニューヨークとボストンで初の海外公演に挑戦。2005年に初演してから10年が経ち、平和を希求する活動は海外へと拡がりを見せている。
第5回 平和の尊さ、能で伝える
浦上天主堂は、1925年に創建された教会。原爆の爆心地から約500mに位置しており、爆発によって頭部のみになった「被爆マリア像」など原爆遺構が数多く点在する。
長崎の聖母は、キリスト教と原爆に関わりの深い浦上天主堂を舞台に物語が展開する。前半では、被爆者を懸命に助ける女性の姿が語られ、後半では聖母マリアが犠牲者を慰め平和への祈りを捧げて天国に昇天する様子が描かれる。清水さんは、主役の女性と聖母マリアを演じている。
創作のきっかけは、十数年前。長崎の神社で途絶えていた能の復元に携わった時、地元住民から「原爆の犠牲者を慰霊する作品も作ってほしい」と打診された。能という伝統文化に現代の出来事を盛り込む難しさがあったが、広島の原爆に関する能も手掛けた文筆家・多田さんに創作を依頼し、清水さんは完成した台本をもとに編集に着手した。「被爆するとは、どのような体験なのか」――。資料では窺い知ることができない「温度」を肌で感じるために、長崎の街を歩きまわったという。
初の海外公演、世界に拡がり
ニューヨークは日米交流団体のジャパンソサエティーが、ボストンは日系経営者コミュニティのJREXなどがそれぞれ主催した。
海外公演にあたり、1時間30分ほどの作品を50分に短縮したほか、グレゴリオ聖歌を歌う場面では現地聖歌隊に協力を依頼。開演前には「被爆マリア像」の写真も紹介した。観客からは「原爆は戦争を終わらせるために必要だったと教えられたが、間違っていた」という声も挙がったという。
11月には、核兵器廃絶を目指す科学者が集う世界大会「パグウォッシュ会議」(会場/長崎)にも出演。5月に続き、再び世界に発信するチャンスを得た。今後は、次世代継承も大きな課題だ。「多くの人に上演してもらい、もっと拡がっていけば」と話している。
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