深沢で40年以上地域に親しまれた書店が昨年春、惜しまれながら閉店した。それから1年半。同じ場所に同じ店名を受け継ぐ「ブックスペース」がオープンした。運営するのは前店主の親族。書店としての「場所の記憶」を活かしながら、本を通じて人と人がつながる新たな拠点作りを目指している。
「ブックスペース栄和堂」は11月16日、深沢行政センターそば(常盤60)にオープンした。店内には小説からビジネス書、スポーツ雑誌など様々なジャンルの本が並ぶ。「コンセプトは本棚に囲まれたカフェ&バー。コーヒーやお酒を楽しみながら、ゆっくり本を楽しんでほしい」と店長の和田淳也さん(31)は笑う。
同店では本の販売や貸し出しをしない。代わりに、ユニークな仕かけを用意している。その一つが、読みかけのページに挟むことができる専用の「しおり」。和田さんは「ジブリ映画の『耳をすませば』ではないですが、よく同じ本を読んでいるな、と気になるような人ができて、その人と実際に出会える場所になれば」と狙いを話す。
ほかにも、ある個人が推薦する本だけを並べる棚も設置。現在は居酒屋やコーヒー店の店主、大学院で中世史を学ぶ学生など、様々な背景を持つ6人が「おすすめ本」を置いている。
40年親しまれる
実はこの場所には昨年春まで、同じく「栄和堂」という名の書店があった。店主は淳也さんのおじ、豊さん。豊さんは1973年、大学を中退し、父とともに店を始めた。
その後、文具や雑貨も取り扱うようになり、子どもから大人まで地域の人々でにぎわいを見せていた同店。豊さんの兄で淳也さんの父・正則さんは「弟はお客さんに『あの商品はないの』と聞かれるとすぐ仕入れちゃう。おかげで店には在庫だらけ。決して商売は上手くなかったね」と振り返る。商店会長を務めるなど、豊さんの誠実な人柄は地域でも良く知られていた。
そんな豊さんは昨年初めに食道がんが見つかり、同年3月、治療のために入院後、容体が急変し帰らぬ人となった。62歳だった。
「場の記憶活かす」
その後、同店は閉店。その跡地を借りたのが、市内を拠点とするIT企業「(株)ワディット」。淳也さんの父・正則さんや兄の裕介さんが経営する会社だ。
昨年末、大手住宅設備会社を辞めて鎌倉に戻り、同社で働くことになった淳也さんは、栄和堂跡地の活用を任されることになった。
そこで注目したのが「場所の記憶」だったという。「おじがなくなった後、閉店セールを開催したのですが、本当に多くの人が惜しんでくれた。なかには『ここで買った文房具をずっと大切にします』と書いた手紙を持参した小学生の女の子もいました」。
40年以上にわたる歴史や、本と出会うリアルな書店ならではのワクワク感を活かしたい―。悩みぬいた末にたどり着いたのが「本を介して人と人がつながる場所」というコンセプトだった。ゆったりとお茶をしながら、本を楽しんだり、本の向こうに「人の気配」が感じられる工夫、店名を残したのもそうした理由からという。書棚や床など、書店時代の内装もできる限りそのままにした。
淳也さんは「今後はイベントなども企画したい。地域の人に親しまれ、集う人同士がつながる場所になれば」と話している。
営業時間は正午から午後11時。水、日、祝日休業。詳細は【電話】0467・67・6814または【URL】http://eiwado.space/で。
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