『石のもつエネルギー 囲碁の科学と哲学』を出した 村瀬 有(本名 平八)さん 大磯町在住 78歳
発見導く探究心と忍耐
○…白と黒。勝っている石はエネルギーが小さい―。碁石の位置関係と相互に働く力を計数化。過去の本因坊戦や棋聖戦の実戦譜を用いて検証し、石の総エネルギーと勝敗に関わりがあることを理論づけた。「理論が確立できた時はとてもワクワクした。金メダルを獲ったような気分だったね」と振り返る。分子間引力が専門の工学博士で、囲碁は高校時代からのキャリア。科学的なアプローチで囲碁の奥深さを探究し、このほど『石のもつエネルギー 囲碁の科学と哲学』を出した。
○…ページをめくると、門外漢にはちんぷんかんぷんな計算が。「数式は飛ばして読んでいいです」と記者を安心させ、「西洋の科学と東洋の哲学が結実した囲碁」「知性と感性の総合物である囲碁」について噛み砕いて解説する。物事の本質を見極め、よりよく生きるための指針やヒントを囲碁が与えてくれることに気付く。「この本を読めば、私のように若くいられる老化防止の秘訣が分かりますよ」と茶目っ気を見せる。近ごろはプロ・アマとも韓国や中国に押され、日本の囲碁界に危機感を覚えていたところ。新著は「囲碁にイノベーション(革新)が必要だ」との思いを込めた。
〇…愛知県出身。少年時代は南洋一郎らの冒険小説や推理小説を読みあさった。「勉学は全然だった」と謙遜するが、高校は海部俊樹元総理や建築家の故黒川紀章ら錚々たる卒業生がいる東海高校へ。大学時代はギター、囲碁、ドイツ語と哲学者ゲーテに情熱を注ぐ。信州大学や山形大学で教える。1980年、欧州塗料高分子国際会議グランプリ受賞。著書に『ゲーテ先生、生きる知恵を聞かせて』がある。
○…「新しい発見は、文献の中にではなく、実験と頭脳の中にある」が信条。好奇心と発想の独自性、飽くなき探究心がそれを実践してきた。庭にも室内にもグリーンがいっぱいの家で草花を育てるのが上手な夫人と愛犬リーザと暮らす。