連載【5】 検証・小田原の課題 地域医療
過払い問題に盗難事件と本来の業務とは別のところで不祥事が続いた小田原市立病院。果たして信頼を取り戻し、超高齢化社会を前に市民の命を守る基幹病院として、再生は進んでいくのだろうか。5回目の今回は『地域医療』をテーマに、県西医療の中核を担う小田原市立病院の今後の方策を探る。
現場に応える管理体制の強化を
▼昨年、ずさんな管理体制が発覚した小田原市立病院の預り金盗難事件。「このようなことは決してあってはいけないこと」と沈痛な面持ちで同病院はコメントした。前年の手当ての過払い金問題に続き明るみとなった不祥事。医療現場とは関係ないところでマイナスイメージがついてしまったが、組織として長年の「膿み」を出す変革の過渡期を迎えているのかもしれない。
▼市立病院は昭和33年6月、県西地域の基幹病院として開院した。当時は内科や外科など9つの診療科目、病床数は110床だった。現在は26の診療科目に、病床数は417床、常勤医師92人となっている(※4月1日現在)。同院の性質上、財政的に厳しい状況でも多くの診療科目を開設する役割を担っているが、医師不足は深刻だ。平成18年4月に腎内科、心身医療科の2科で新規患者の受け入れを中止、休診状態に追い込まれた。また、内科や耳鼻いんこう科など一部の科で診療に「かかりつけ医」の紹介状が必要となる。これは医師不足の影響に加え、「高度で専門的な治療」という市立病院の立場を明確にするための措置だった。
▼市は平成20年、地域医療に関する検討委員会を発足。3師会(医師会・歯科医師会・薬剤師会)の会長や市民の代表らが委員となり課題を抽出。議論の中心の一つが市立病院だった。
▼山積していた課題は少しずつ形となって成果が見えてきた。特に経営面では平成21年4月の救急救命センターの本格稼動、同年10月の地域医療支援病院としての承認などもあり、平成21年度は6年ぶりに黒字となった。特に県西地域で設置が課題となっていた救急救命センターの開業は、脳出血や心筋梗塞、心肺停止などの生死に関わる重篤な患者に対しても、24時間体制で受け入れが可能となり市民の生活に大きな安心をもたらしている。
▼医師不足の解消についても、休診の診療科を再開させ、平成18年度は5人だった産婦人科医も本年度は10人と充実している。また医師の確保も将来的に常勤医として見込める研修生を全国に呼び掛け、各診療科の現役医師が臨床研修管理委員として教育にあたっている。現場を通して新たな医師を育て、毎年国家試験を通過した初期臨床研修医を受け入れ、現在は14人が在籍する。また看護師に関しては市内の看護学校の実習先として対応。今年も看護師28人が仲間入り。新たな医師、看護師のために病院全体で組織的な教育体制を整えている。
▼診療・治療に当たる現場は、誰もが、いつでも気兼ねなく掛かれる「一番身近な病院」として課題を解決し、成果を上げつつある。だからこそ、管理運営面での失態がクローズアップされるのは口惜しい限りだ。このようなことが続かぬよう、新しい首長には過去の反省のもと、しっかりとした監督意識が必要だ。
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