インターハイ陸上400mで日本一に輝き、続く国体でも初優勝した市内南町在住の青木りんさん(相洋高3年)。日本選手権で2位に入り、リレーの五輪代表候補にも名を連ねたほどだが、高校で陸上人生に終止符を打つつもりだった-。
本当に走ることをやめられるだろうか。昨年9月上旬、青木さんの胸中は揺れ動いていた。
女子陸上界において、日本記録保持者を多数輩出してきた東邦銀行(福島県福島市)と福島大学(同)の陸上部監督を務める川本和久氏が、スカウトに相洋高を来訪した。「自分にはやりたいことがある。今は陸上のことは考えられない」。青木さんの強い意思に、名将が応える。「本当にやりたいことなら陸上をやった後でもできる。遠回りしても2つとれる。君は今、陸上をやるべきだ」
2日後、ホテルマンの仕事に憧れていた青木さんは一転、再び走ることを決意した。「どっちも選んでいいんだ」とその時の心境を振り返り、「やるからには行けるところまでいって、もっと有名になってやめたい。人気絶頂で引退した山口百恵さんのように」。
選手、大学生、銀行員として
12月半ばには、福島大の合格通知と東邦銀行の内定書が自宅へ届いた。今春からは、午前中は銀行員として働き、午後から東邦銀行や福島大の陸上部で練習。午後6時から9時過ぎまで大学の夜間部で学ぶ。所属は福島大となるものの、実業団選手とも肩を並べて走ることになる。「強い選手と走るのが好き」という青木さんにとって、自分を試す絶好の環境とも言える。
そして川本監督の存在。さらに東邦銀行では、女子400mの日本記録(51秒75)を持ち、2カ月前に現役を引退した千葉麻美さん(旧姓:丹野)が指導にあたる。日本人でこれまでに51秒台を記録したのは、同種目で北京五輪に出場した千葉さんだけだ。自己ベストが53秒44の青木さんは、「51秒台、日本記録を目指したい」と意欲をのぞかせる。
7秒短縮の裏に強い精神力
1分0秒75。中学時代は200mを主戦場としていた青木さんが、相洋高に入学した年の7月に初めて400mを走ったときの記録だ。あれから2年、タイムを7秒以上縮めた背景には、妥協を許さない強い精神力があった。
相洋陸上部を指揮する銭谷満顧問(50)は言う。「苦しいところから逃げないんですよ。トレーニングを10したら、身になるのは6〜8ぐらいだったりする。でも、彼女は成果が10出るようにもっていく」。1学年先輩で、青木さんを目にかけてきた大石沙南さん(中央大1年)は、「どんなにきつい練習でも、最後までタイムを落とさずに走りきる強さがある」といい、「同じ陸上選手から見ても、りんは誰よりも試合を楽しんでいる」と評す。
食事制限も徹底。友達が手作りのお菓子を持ってくると、普段は喜んで口にするスイーツ好きの青木さんだが、「大会前1週間は断っていますね」とチームメートの佐藤未歩さん(3年)。さらに、学業にも手を抜かない青木さんは、テスト期間中は城山競技場での練習後に、再び学校へ戻って机に向かう。
そんな青木さんと3年間同じクラスで、陸上部長距離の安西七海さん(3年)は、親友の活躍をずっとそばで見てきた。「『すごいね』っていうと『すごいでしょ』と返ってくる。本当に自信があるからこそ言えると思うし、私もそういう選手になりたいと思わせてくれる存在だった」(安西さん)
東京五輪のある2020年を、青木さんは22歳で迎える。「五輪を意識しないわけではないけれど、とにかくやりきったと思えるまで走りたい」。その表情は清々しさに満ちていた。
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