戦士のような装備を身につけた、凛々しい立ち姿。見る者を静かに睨む勇ましい表情。『自己の中の石部』と題されたこの作品は、秦野市鶴巻北在住の彫刻家・山崎りょうさんが制作した不動明王像だ。都内の展示会に出品した際にも注目され、秦野では10月9日(金)から3日間、市立宮永岳彦記念美術館市民ギャラリーで開かれるアトリエ山桃展で公開される。
9日からアトリエ山桃展で公開
不動明王とは、大日如来の命を受けて魔軍や煩悩を降伏し、仏道を守護する明王。9世紀初めに密教とともに日本に伝わり、特に平安時代初期から江戸時代まで盛んに信仰された。昔から彫刻家が作る仏像には自己表現を含むものもあり、特に鎌倉時代には多種多様な姿で作られたという。
「現代に生きる自分だからこそ表現できる不動明王像を作りたかった」という山崎さん。高さは台座を含め2m30cm。素材は木材と樹脂、そして金属だ。肌の質感を出すために日本画の顔料も使用した。
テーマは不動心。「心の揺れ動き」を表す2匹の蛇の中心に、不動の自分が立ち、邪心を綱で縛る、という構図だ。作題の「石部」とは、極端に生真面目で頑固な人を指す言葉「石部金吉(いしべきんきち)」のこと。石部金吉金兜(かなかぶと)という慣用句をポジティブにとらえ、自身の中に住む、金兜を冠った石部を表現した。山崎さんは「良い部分や悪い部分が混在する不完全な心の中に、きっと誰にでも、不動の部分があると思います」と話す。
一般的に不動明王像は右手に利剣、左手に縄を持っているが、同作の不動明王が持つのは縄だけ。剣は台座に置かれ、刃先は不動明王自身に向いている。
仏像がヒーローだった
山崎さんは相模原市出身の44歳。「40代は大作を連作する作家が多い。自分もこれからが勝負です」と目を輝かせる。現在、善昌寺(鶴巻南3の6の18)に設置する地獄を表現した彫刻も制作中だ。
文化功労者で彫刻家の山崎朝雲氏は高祖父の弟、祖父の秀雄さんも仏像を作る彫刻家だった。幼少期から祖父と寺院を回り、仏像の迫力に魅了されたという。
「子どもの頃から、ウルトラマンとか仮面ライダーと同じくらい、仏像をかっこいいと思っていましたね」。山崎さんにとって、仏像はヒーローの1人。「感銘を受けた仏像は、作られた時代の背景が感じられるもの。自分も今、感じていることを作品に反映していきたい」と思いを話す。
東京芸術大学でブロンズ彫刻を学んだのち、彫刻家に。5年前に自宅を兼ねた「アトリエ刻」を鶴巻に構えた。現在は制作活動に励みながら、東京都渋谷区にある東京デザイン専門学校で学生に彫刻などを教えている。また、鶴巻の老舗旅館・陣屋の元女将である紫藤邦子さんが館長を務める「アトリエ山桃」でも、特別講座や子ども向けのアート教室を任されている。
「アトリエ山桃展」は10月9日(金)から11日(日)まで、宮永岳彦記念美術館市民ギャラリーで開かれる。時間は午前10時から午後5時(11日は4時)まで。入場無料。問い合わせは【電話】0463・77・5210へ。
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