優れた技を持った名工を県が表彰する「神奈川県卓越技能者」が発表され、港北区在勤の日本料理調理師、榎本義明さん(49)、港北区在住の和裁士・鈴木勲吾(いさご)さん(47)がこのほど選ばれた。日本料理、和裁と「和の職人」の道で各々技を磨いて30年。その横顔と、今後の目標などを取材した。
神奈川県卓越技能者とは、神奈川県技能者等表彰として年に一度、神奈川県が優れた技能を持つ技術者を選ぶもので、今年は29人が選ばれている。優秀技能者、青年優秀技能者等があり、その中でも卓越技能者は、県内の第一人者として「神奈川の名工」と称されているという。
「親方を手本に」
榎本さんは、(株)ザ・ニューオークラ(樽町)で勤続16年を数え、懐石・寿司などの日本料理を宴会場・ケータリングも含め、幅広く担当している。これまで2年に一度行われる全国大会「技能グランプリ」でも、3年前に神奈川県代表として初めてグランプリを受賞した実力の持ち主。全国日本料理コンクールなど多くのコンクールで優秀な成績を収め、料理展示会や講習会の講師も務めることで、調理師の技術技能知識の向上にも貢献している。さらに、技能五輪大会出場者の指導者としても、全国大会で銀賞3回の受賞に導くなど若手育成にも尽力する。専門学校卒業後、19歳から日本料理の道に進み、精進を重ねてきたが、影響を受けたのは、現在も直属の上司で総料理長、(一社)全国日本調理技能士会連合会理事でもある加藤亨さん。加藤さんの何をするにも一つ一つ丁寧な仕事ぶりを手本にしてきた。技能五輪の指導も「親方の手伝いの延長線だから」とあくまで控えめだ。
料理好きから調理師へ
中高生の頃から台所に立っていたのが原点という榎本さん。料理が好きで「何の抵抗もなく、自分の食べるものはよく作っていた」という。日本料理を志したのは「四季折々が感じられるものをやってみたかったから」。また、日本料理の妙味は「やはり味付け。日本料理で使えるのは限られた調味料なので、その組み合わせで美味しさを表現することが一番難しい」とも。接客担当から「お客さんから美味しいと褒められた」と伝えられるのが、何よりの喜びだという。コロナ禍の影響で、飲食業界は厳しい状況が続くが、今後は「若い後輩たちの指導をしながら、成長をさらに促していければ」と先を見据えた。
三代目に生まれて
鈴木さんは曾祖父の代から和裁をなりわいにする家系に生まれ、現在、有限会社衣裳研究会(神奈川区神大寺)で代表を務める。高校卒業後に香川県の原和裁研究所で5年間の修行を積んだ。全国から和裁士の卵が集まる中、男性は鈴木さんただ一人という環境の中、23歳の若さで最難関の1級和裁技能士資格を取得した。5年間で身につけた技術や心得は、今でも着物作りの素地になっているという。
祖父が起こした衣裳研究会の三代目として大手百貨店などを顧客に持ち、和裁の講師や技能五輪全国大会の主査を務めるなど後進の育成や着物文化の普及にも精力的に取り組む。和裁だけでなく着付けの腕も磨き、国家検定の着付け技能士1級資格を持つ。「私自身が着物を着せてあげられるようになることで、よりお客様の体形に合った着物作りができるようになる。飛び柄が思い通りの場所に入ったときの達成感は格別です」
職人の世界に終わりなし
過去に父・栄治さんも選ばれた卓越技能者の称号を、親子二代にわたって手にした鈴木さん。「父には一生かないませんが、同じ賞をいただけたことはとても感慨深いですね」。そんな栄治さんが2016年に横浜文化賞を受賞したことは、意義のある出来事だった。「父の受賞により、染めや織りだけでなく、仕立て屋の技術も文化だと認めてもえらえたことが本当に嬉しかった」という。30年にわたる和裁士としての経験にも「指導者として日々学ばせてもらう中で、今でも新たな発見がある。和裁は着物作りの中で最終工程となる重要な仕事。いろいろな職人の手を経てきた反物を仕立てるという責任感を持ち、これからも一層精進していきたい」と言葉に力を込めた。
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