幻覚や妄想といった症状が特徴の精神疾患、統合失調症を抱えながら、訪問介護ヘルパーとして働く川和町在住の吉川進さん(51)。先月、仲町台で講演を行った吉川さんが、区内の様々な人との関わりの中で少しずつ社会復帰を果たしてきたその歩みを追った。
吉川さんは同じ病気を持つ当事者に「希望を持ってほしい」との思いから、自身が統合失調症を抱えていることを公表している。
ある日、宇宙人が攻めてくる妄想にかられ、家財道具を外に放り出し、警察が家にかけつける事態になった。近隣住民も集まり、人だかりに。その件をきっかけに病院を受診し、23歳で同症の診断を受けた。
「薬を飲んで妄想は消えても社会性がなかった」。家に引きこもりがちになった。アルバイトをしてみるものの人間関係がうまくいかず、長続きしない。コミュニケーション力を向上させようと決心し、週1回区役所が開く精神障害の当事者会に顔を出すなどした。「怪獣や特撮好きだった自分と話の合う友達ができた」。何人かで食事にいくなど、交友が増え、気持ちが前向きになった。精神科のデイケアや作業所に13年通い、行動範囲が少しずつ広がった。
ホームヘルパー(訪問介護員)の資格を作業所職員に進められ、挑戦。実習に行くも「つらくてやめたい」と思ったが、当事者会でサポートしてくれた女性の社会福祉士に「吉川さんが実習でつらかったら、いつでも励ましてあげるから」と言葉をかけられ、途中で投げ出すことなく38歳の時に取得した。「この一言がなかったら今の自分はなかった。本当にありがたかったです」と吉川さん。
「感謝」が働きがいに
妻(44)は作業所に来ていたボランティアの一人だ。「家族を支えるためにも、定職につきたい」と考えた吉川さんに、訪問介護ヘルパーとして働く場を提供しているのが仲町台を拠点とするNPO法人「五つのパン」=鹿毛独歩理事長=だ。精神障害者や身体障害者、高齢者にも働く機会や生きる居場所を地域に作ることなどを目的とする同法人では、訪問介護やコミュニティカフェ「いのちの木」を通じて様々な立場の人を支援している。
8年前から働き始めた吉川さんは「初仕事で相手にすごく感謝された。仕事で怒られた経験はあるけど、感謝されたことはなかった」と当時を振り返る。同法人の岩永敏朗理事(55)は「彼がいまどんなことに苦しみ、悩んでいるのか、日々話を聞いて、精神状態を気にかけている」とサポート役を担う。吉川さんの精神状態が不安定になった時や家族の事情で仕事に出られない時は岩永理事が代わりを務め、手助けする。
同法人の理解もあり吉川さんは、今では週5日、家事などの介護が必要な精神障害者宅を訪問する。月1回通院しながら、投薬治療を続けており、現在の症状は安定している。妻と協力して4歳と1歳の子どもの育児をこなしながら、日々の生活を送る。「弱さを隠さず絆に。自分の弱さをさらけ出し、いろんな人に助けてもらえた」。吉川さんは笑顔でそう話す。
都筑区版のトップニュース最新6件
|
|
|
|
|
|