今年の大河ドラマは平安時代中期の歌人・作家として活躍した紫式部。代表作は光源氏を主人公にした『源氏物語』が有名。源氏物語を研究するフェリス女学院大学の井内健太准教授(文学部/日本語日本文学科)に話を聞いた。
――基本的な質問ですが、紫式部は実在したのですか。
「紫式部が記したとされる『紫式部日記』や他の貴族が残した日記にそれらしき人が書かれているので実在したようです」
――どのような人だったのですか。
「正確な生没年や本名は分かっていませんが、970年代ごろに生まれたとされ、1000年代前後に活躍しました。中流貴族で学者の藤原為時の娘です。当時の貴族は最先端の知識を漢文から得ていましたが、紫式部は漢文の読み書きができ、漢詩、中国の歴史・文化にも精通していたようです。
当時は『学問は男の世界』だったので紫式部は跡を継げず、父為時は『男じゃないのが不幸』と言ったそうです」
世界最古の長編小説
――源氏物語はいつごろ書かれたのですか。
「紫式部は藤原道長の娘・彰子の女房として仕えました。源氏物語は仕える前から書き始め、それが道長の目に留まり、女房になったとする説があります。54帖からなる長編で世界最古の長編小説とも言われています。自筆の原稿は見つかっておらず、200年以上後の人が写し残したものが現存しています」
――どのような物語なのですか。
「源氏物語というと光源氏と多くの女性との恋愛が描かれていると思うでしょうが、政治も書かれています。光源氏は生まれながらにして権力闘争に巻き込まれていきます。どのように出世し貴族社会を勝ち抜いていくかも面白みの一つです。
ただ、それは前半に書かれていることで後半は光源氏の転落が描かれます。容姿、学問、和歌、音楽とすべて秀でていたスーパーマンが最後は不幸の中で生涯を終えるという内容で、当時の読者も胸に迫るものがあったと思います」
才女だった紫式部
――ほかにどんな特徴がありますか。
「物語には漢詩や中国の歴史・文化がふんだんにとり入れられています。当時の貴族たちは源氏物語を読んで『これを女性が書いたのか』と驚いたことでしょう。一条天皇も読んで『ちゃんと勉強している』とほめています。
唐の玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋物語・白楽天の長恨歌の引用は有名ですが、当時は他の作品を引用することは積極的に行われていて、由緒ある作品を理解して自分の作品に引用するのは良いこととされていました。紫式部はその引用が的を射ていて、『ここから引用するか』と貴族たちをうならせたに違いありません」
――紫式部と藤原道長の関係はどうだったのですか。
「10歳ほど道長が年上という同時期に居合わせているので、愛人関係だったという説もありますが、定かではありません。当時は紙は貴重品だったので、提供を受けて源氏物語を書き続けたと考えられます。その提供者が道長だったのではとも言われています。大河ドラマでどのような関係に描かれるのか楽しみです」
――源氏物語の中で好きな場面はどこですか。
「葵巻ですね。葵上は光源氏と政略結婚で結ばれますが、一緒にいると息が詰まってしまうほど仲が良くない。葵上は光源氏の子を身ごもるのですが、生霊に取りつかれて死んでしまいます。源氏は病床の葵上を励ましますが最後に去るときに、葵上が『常よりは見送っていた』と書かれています。この『常よりは』という言葉だけで葵上の気持ちが表現されていて、気持ちが通じ合ったのではと思わせる場面です。高校時代に読んで感動しました」
――これから源氏物語を読みたい人にオススメはありますか。
「多くの作家さんらが現代語訳で出版していますので、どの本もおすすめです。私は漫画の『あさきゆめみし』から源氏物語に入りました。最初から最後まで書かれていますし、視覚的に当時の様子が描かれているので理解しやすいと思います。ぜひ多くの人に源氏物語の魅力を知って欲しいですね」
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