第38回全日本高齢者武道大会の剣道の部B組で個人優勝した 小林 正人さん 平戸町在住 66歳
自分を制する「一本勝負」
○…全国優勝を果たした日の夜は、なかなか眠れなかった。「なぜこれほど落ち着いて試合ができたんだろう」と、目を閉じて考える。頭に浮かぶのは、昨年11月に急逝した母の姿だ。「県大会の直前に亡くなり、試合を断念することになった。振り返れば『あのときは悪かったね、今日は頑張りなよ』と背中を押してくれたようにも思える」という。抜群の集中力で、相手に一本も取らせることなく大会を制した。
○…舞岡中学校への入学と同時に、剣道を始めた。腕力の強さもあり、区大会では「ほとんど優勝」。剣道の面白さを知った。「なにより顧問の大窪章先生への恩は忘れられない。わが子のように指導してくれたのが、剣道が好きになったきっかけ」という。卒業後は剣道の強豪高校に進学。そこで「地獄」を知った。「100人が入り、15人しか残らないような部活。殴られ蹴られ、泣きながら稽古をして、精神力だけは鍛えられたね」と話す。それでも剣道は好きであり続けた。国士舘大学を経て、神奈川県警へと進路を進めた。
○…「唯一の自慢」と言える特技がある。「スリ犯の逮捕」だ。定年前の5年間は、県警の鉄道警察隊に所属。高い検挙率で犯罪抑止に貢献した。「スリをやろうとする人は、見ればすぐわかる。痴漢も盗撮もそう。剣道と同じで、じっと相手の動きを見て捕まえる。一本勝負だよ」と笑う。その実績から、定年後は鉄道警察隊で初めて再任用され、後進育成に努めた。退職時は「もうスリを捕まえられないんだ、という喪失感があった」と振り返る。
○…「老いは剣をもって迎えうつべし」。いまモットーとしている言葉だ。年齢を重ね、かつてより俊敏に身体が動くことはないが、だからこそ新たに学ぶことも多いという。目指すは「8段」の境地だ。「まずは日々の生活を正していきたい。煩悩はなかなか消えないけれど」。ほほ笑みの中に、強い信念が見える。
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