太田桂(かつら)さん(62)(戸塚区在住)は3年前に「墓石絵 桂」を立ち上げた。
事業内容は、墓石に彫る絵のデザインだ。まず遺族から亡くなった人の思い出を聞きながら、デザイン画を作る。その後石材店での彫刻を経て「墓石絵」として仕上げる。
芸術大学を卒業した太田さんは、デザイナーなどを経て、県内の高校で美術講師をしていた。転機は、父の墓を作ろうとしていた、2006年に訪れた。
「海が好きだった父のため、世界でひとつの墓を」。美術の腕を生かし、爽やかな帆船の絵を描くと、思った以上の出来になった。
「人生の軌跡をかたちに遺すことで、悲しみを乗り越える力になる」。そう実感した太田さんは「これを人生の仕事にしたい」と、男女共同参画センター横浜が主催する起業セミナーに参加。事業のノウハウを学び、さらに市や各種団体にも協力を仰ぎながら、数年かけて起業にこぎつけた。
「この歳だからこそ」
最初の依頼主は突然夫を亡くした女性だった。太田さんは遺族の思いに心を寄せながら、「夫の死後に現れた」という黒い蝶や、家族を象徴する5匹の魚を描いた。完成した墓石を見た遺族は、心から喜んだ様子だったという。「遺族の悲しみに寄り添うのは、この歳だからこそできることかもしれない」と話す。
現在、美術の非常勤講師を続けながら事業をしている。受注件数は年に2〜3件。利益は決して多くはないが「お客さんの喜ぶ顔を見るのは、お金では換算できない嬉しさ」と語る。
課題もある。パソコンが大の苦手で、顧客とのメールのやり取りも「一苦労」。ウェブでの宣伝にも苦心しているのが悩みだ。
目標は「年間84件」の受注。大きな数字を掲げるのは、教え子を思う気持ちからだ。「これは人を雇うために必要な件数。美術大を出ても仕事がない教え子が働ける場所にするため、試行錯誤を続けたい」 (続く)
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