横浜市教育委員会が教員による4つの性犯罪事件の公判に職員を動員し、一般傍聴人を締め出していた問題で、市の依頼を受けた弁護士チームによる検証報告書が7月26日に公表された。この中で動員を「憲法違反とまでは言えないが、公開裁判の原則の趣旨に反する」と結論付け、再発防止には組織改革が必要だとした。
前教育長も対象
3人の弁護士による検証チームは、6月13日に調査を開始し、動員に至った経緯や法的な課題などを調べた。その中で動員が始まった2019年当時の鯉渕信也前教育長(今年3月末で退任)や方面別に設けられている学校教育事務所の所長、被害者を支援したNPO法人の関係者など、27人に聞き取り実施。このほかに、動員された229人の職員に書面で質問を送り、197人から回答を得た。
1件目は被害者側の要望
報告書によると、1件目の事案は18年に発生。被害を受けた児童生徒の保護者がNPOに相談し、市教委側と接触。19年2月に教員が逮捕され、起訴後の4月にあった意見交換の中で被害者側から「NPOや市教委で傍聴席を埋め尽くしたい。特に再発防止マニュアルを作る人には参加してほしい」と要望があった。それを受けて4月9日に市教委職員が鯉渕前教育長に対して説明を行い、口頭で動員の意思決定があった。21日付でNPOから傍聴要請の依頼が文書であり、5月の第1回公判の前に方面別事務所が主導して動員依頼を各部署に出した。方面別事務所は同様の依頼を判決が出た7月の公判まで3回行い、職員66人が傍聴。実刑が確定した後、被害者の保護者からは市教委が大人数で対応したことに対する謝辞があった。
2件目以降は前例踏襲、被害者側にも伝えず
23年7月から9月に3件続けてわいせつ事件が発覚した際、対応する職員の中に1件目の事案で傍聴依頼を受けていた人がおり、それを知った別の職員がパソコン内にある当時の共有資料を見つけた。2件目の事案では、その資料を基に、12月の第1回公判前に動員依頼の文書を出し、38人が傍聴。しかし、動員は被害者側に伝えられておらず、保護者から「傍聴者が多く、保護者も入れないところだった」と言われた。その場で動員の事実を伝えたが、やめてほしいという声がなかったため、24年3月の第3回公判まで動員を続けた。3、4件目の事案でも1件目での対応と共有資料を基にした動員が繰り返された。
ためらう職員も
4件目の事案では、方面別事務所の課長が「裁判の公開との関係で動員は好ましくない」と考えたものの、2、3件目で動員が行われていたため、続けて動員した。別の係長は、動員依頼の文書を作成したが、「動員が良い取り組みとは言えないと考えていた」ために正式な決裁の手続きを経ず、事実上の承認だけ済ませていた。また、被害者の弁護士に傍聴席を埋めようとしていたことが伝えられず、被害者の支援者が傍聴できないこともあった。
「議論の形跡なし」
動員について、当初から職員の中に疑問視する声があり、関係部署に問い合わせる職員もいたが、「問題点等について真剣に議論された形跡はない」とされた。1件目から傍聴していた係長は、公判で予想以上に被害者の情報が秘匿されていることを知り、動員の必要性に疑問を感じた。24年2月の係長が集まる場で問題提起し、検討する方向性となったが、自身が4月に異動となり、議論は進まなかった。
「連携の発想乏しい」
調査を踏まえ、組織的な動員が憲法が定める公開裁判の原則からして「趣旨に反する」としたが、「憲法違反とまでは言えない」と結論付けた。さらに、被害を受けた児童生徒の保護について「教育委員会の中だけで完結しようとし、関係機関と連携しようという発想は乏しかった」と指摘した。
動員の意思決定は鯉渕前教育長と各方面別事務所長に責任があると判断したが、法的な責任は「明確、断定的な結論を得るに至らず」とした。
再発防止に情報共有
最後に再発防止策として、組織内での情報共有や多角的な視野を持った行動などとともに、「教育委員会の一人一人が真摯に自身に問いかけ、同様の事態を起こさないためにどのような組織改革が必要か考える」と結んだ。
報告書が出されたことを受け、山中竹春市長は「今後このようなことがあってはならないと考える。子どもたちを傷つけるような事案が発生しないよう、しっかりと対策を取っていくことが重要」、下田康晴教育長は「教育委員会における組織改革の必要性も指摘されており、今後、再発防止に向け、抜本的な改革に取り組んでいく」とそれぞれコメントを発表した。
旅費相当額を自主返納
公判傍聴の際の旅費や給与について弁護士チームは、返還義務はないとの見解を示したが、市教委は旅費相当額の12万7622円を鯉渕前教育長や関係部署の課長以上の職員が自主的に返納することを決めた。
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