横浜橋通商店街そばの浦舟町に11月1日、書店「本屋 象の旅」が開店した。南区にある書店は数店で、新店舗は珍しい。初めて書店を運営する店主がこだわって選んだ約3千冊が並び、大きな窓が特長の外観も手伝い、付近の住民から注目されている。店主は「本を通して、コミュニケーションを図る場にしたい」とネット全盛の中、実店舗の良さを訴える。
南区内に2〜3店
南区には関内周辺にあるような大型書店はない。県内170店が加盟する「神奈川県書店業組合」にも加盟する2店舗が京急、地下鉄弘明寺駅の周辺にあるほか、絵本専門店がある程度だ。
不動産から転身
「象の旅」は同商店街の脇から南吉田小学校方面に向かった場所(浦舟町1の1の39)にある。
店主の加茂和弘さん(51)は2019年まで不動産や広告を扱う企業に勤務していたが、「いつかは自分で店を開きたい」と思っていた。当初はカフェなどの飲食店も検討したが、そこに新型コロナウイルスの感染拡大が直撃し、再考を余儀なくされた。コロナが落ち着きを見せたこともあり、好きだった本を商売にしたいと考え、書店を開くことにした。
加茂さんは「世の中がどんな雰囲気であろうと、好きな本から学ぶということは、不偏のものがある」と本の魅力を伝えるには、小さくても店舗を持つことが大事だと考えた。スマートフォンやパソコンで本が簡単に購入できる時代だが、テーマやジャンルを絞った小規模書店が各地にオープンしていることも背中を押した。1年以上前から準備を進め、似た形態の書店経営者からアドバイスをもらった。
店内見える大きな窓
中区に住んでおり、自宅周辺で物件を探す中で、現在の場所を見つけた。商店街のアーケードから脇に入った場所で人通りは決して多くないが、青いテントと店内に並ぶ本がよく見える大きな窓が特長。
店名の「象の旅」はポルトガルの作家、ジョゼ・サラマーゴの同名小説から取った。旅や外国、動物に関心があるため、この店名にした。
真新しい木の香りがする棚には、新書から絵本まで約3千冊が並ぶ。最近は海外文学をよく読むようになり、良いと思った作品を入荷している。ほかにも、小説や旅、料理、戦争、ジェンダーなど、テーマごとに本が並ぶ。店の外へ向けて並べられた絵本はカラフルで、外を通る人がよく足を止めているという。
コミュニケーションの場
小規模店は大手書店とは仕入れルートが異なるため、人気作家の作品や話題作がすぐに店頭に並ぶわけではない。それでも加茂さんは「思いが届いてほしい人に店の中の本を見てもらえれば」と語り、コミュニケーションを重視する。
開店から2週間、客からは「孫にプレゼントするにはどんな絵本が良いか」といった相談もある。ほかにも、「今まで近くに書店がなかったので助かる」といった声や「品揃えが面白く、たびたび訪れようと思う」との感想も聞かれる。加茂さんは「本に接触してもらうだけでもうれしい」とネットでは感じることが難しい「本との偶然の出会い」を店舗で体験してほしいと願っている。
「まずは店を続けることが第一」とした上で「ただ本を売るだけではなく、店を『場』として使ってもらえるようにしたい」と読み聞かせを行う人やほかの小規模書店との連携も視野に入れ、新しい本の文化を根付かせようとしている。
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