北海道で行われた全国高校総合体育大会(インターハイ)で、県立保土ケ谷高校陸上部が躍進し、「保土ケ谷」の名を全国に轟かせた。男子5千m競歩に出場した守屋海斗さん(3年)は自己ベストを大幅に更新する20分56秒88で2位に入り、男子4×100mリレーでは、最後までトップ争いを演じ、6位に入賞した。
基礎見つめ直し、土壇場で復調
2年生だった昨夏のインターハイ5千m競歩で6位に入り大きな期待が掛けられた守屋さんは、苦しみながらこの夏を迎えていた。
関東大会後、モチベーションが上がらなかった。「貧血など体調的なこともあると思うけれども、気持ちの部分が大きかった」と言い、インターハイへ向け練習が積めない日々を過ごした。
「3位以内」を目標に北海道に乗り込み、予選レースの1時間前に800mを強めの強度で歩き調子が上向いた。「基礎を見つめ直してきた」という「大きな腕振りと下半身との連動」を徹底しシーズンベストで予選を突破。決勝レースでは「ポイントと考えていた」というスタートで好位置をキープし、一人旅となったレース後半も「自分の歩き」を貫き、2位でフィニッシュした。
手首に友の時計
決勝レースでは左手首に競歩に取り組んできた同級生・三堀真輝さんの時計をつけていた。大会前には三堀さんから電話で「今までの練習の成果を発揮できれば絶対にいける」と背中を押され、「頑張るよ」と返答。短い会話だったが、競技に向き合い苦楽を共にしてきた唯一無二の仲間の思いも胸にレースに挑んでいた。
常に冷静で感情を露わにすることが少ない守屋さんだが、ゴールの瞬間は喜びが爆発。拳を握りしめ派手なガッツポーズを決めた。ゴールの瞬間、頭に浮かんだのは友の姿だったという。
「3位を目標にしていたのでほっとした」と話し、今後については大学に進学し競技をつづけるという。「基礎を見つめ直し、日本代表をめざして少しずつ進んでいきたい」と話した。
最後までバトンワーク追求
リレー競技では初のインターハイ出場となった4×100mリレー。4人のメンバー(1走/熊谷星音さん・2走/森央人さん・3走/前田朝陽さん・4走/榎陸斗さん)は、気負いのような緊張感は一切なく自然体で北海道に入った。
予選をチームベスト記録で突破するも全体10位タイ。サポートメンバーがマッサージするなど全力でケアする「チームワーク」の成果もあり、「勝負」の準決勝ではベストタイムを更新し決勝進出を決めた。
330mまで先頭を快走
1走の熊谷さん(2年)と4走の榎さん(同)が共に内転筋を痛めた状態で迎えた決勝レース。チームは満身創痍の状態ではあったが、サブトラックでは関東大会を終えた時点で課題として挙げ、勝負の鍵と目していた「バトンワーク」を最後の最後まで確認した。サブトラックを後にしたのは、決勝レースに出場するチームの中で一番最後だった。
このメンバーで走る最後となる決勝レースの号砲が切られると熊谷さんから2走でチームのキャプテンを務める森さん(3年)にスムーズにバトンが渡った。
森さんと共にチームをチームをまとめてきた3走の前田さん(3年)も好走。激しい先頭争いをしたままアンカーの榎さんにミスなくバトンを繋げた。「いい所にいる。行ってこい」。強い思いを胸に抱きながらバトンをつないだと前田さんは振り返る。
3人の思い、そして陸上部に携わる多くの人々の思いを乗せたバトンを受け取った榎さんは、足に怪我を抱えていた。つばぜり合いとなったアンカー勝負。最後は競り負ける形となったが、6番目でゴールし、同校史上初のリレー競技で入賞を決めた。
来夏の悲願成就へいいスタート地点
チームをけん引してきた森さんは「タイムもベストではなかったけれども、来年につなげるには、いいスタート地点が作れたかな」と悔しさを滲ませながらも、手にしかけた全国の頂への思いを後輩に託した。
部員の多くは「たたき上げ」
6年前まで県大会出場者もいなかった同校陸上部だが、2018年に赴任した竹内俊樹教諭が顧問について以来、躍進をつづけている。
部員の多くは中学時代に名が知られた存在でない「たたき上げ」。競歩で2位になった守屋さんは中学時代は中・長距離を中心とした選手だったが、高校入学後、竹内教諭の進言もあり、競歩を専門とする道を選んだ。リレーメンバーをけん引し、インターハイでは男子100mにも出場していた森さんも、中学時代は無名の選手で高校入学時のベストタイムは12秒台だった。
「陸上が好きな生徒に公立高校でも本気で取り組める環境を整えたい」と竹内教諭。着任した最初の練習に姿を見せた2人には、「数年後、強い陸上部となる礎を作ろう」と呼びかけ、「努力の大切さ」を切々と伝えた。あれから6年、「陸上が好きな生徒」が年々集まり、今年度は40人の大所帯に。中学3年生を対象にした今夏の練習会・説明会にも、有力選手も含め多くの生徒が参加している。
全国の陸上関係者に「公立の雄・保土ケ谷」の名が轟き始めた。
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