▼横浜市教育委員会が教員による4つの性犯罪事件の公判に職員を動員していた問題で、市の依頼を受けた弁護士チームの検証報告書が7月26日に公表され、動員は「市教委の職務ではない」と断じられた。報告書からは市教委の安易な前例踏襲と情報を共有しづらい組織的な体質が愚行につながったことが分かる。
▼報告書によると、2019年に教員が逮捕された最初の事件では、被害者を支援するNPO法人から、子どもの二次被害防止などを目的として「NPO法人や教委で傍聴席を埋め尽くしたい」と求められた。職員が教育長へ説明を行い、動員が決定。被害者側の要望に応えたい思いは理解するが、憲法にも記されている裁判公開の原則に反するような動員を決めたことが誤りだった。法的に検討した形跡もなく、慎重さを欠いていた。
▼3回の公判に計66人の職員が動員された。被害者の保護者が市教委に感謝の気持ちを示したこともあり、動員に問題があることを考えられなかったと思われる。そして、23年に相次いで発覚した3つの事件では、19年時の対応と残された資料を基に動員が繰り返された。報告書からは動員の是非を検討した様子は見えず、前例を踏襲することで目の前の事態を何とか乗り切ろうとしていたのではないか。公判では裁判所の対応で、懸念された被害者の特定につながる情報が傍聴人に伝わることはなかった。被害者情報が秘匿されていることを知った職員が動員について教委内で問題提起し、議論が進むはずだったが、異動で立ち消えになった。数年で職場が変わる組織に合った情報共有法が求められる。
▼この問題を巡っては、動員時に支給された交通費などの返還を求める住民監査請求が3件出ていた。7月にあった意見陳述の場で市教委は弁護士の検証中であることを理由に資料を提出しなかった。地方自治法に基づく監査よりも組織内部の検証を優先する態度は、監査制度そのものを軽んじてはいないか。市教委は自らの職務が何なのか、原点に立ち戻って考えてほしい。
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