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鶴見区版 公開:2025年3月20日 エリアトップへ

「土木事業者・吉田寅松」58 鶴見の歴史よもやま話 鶴見出身・東洋のレセップス!? 文 鶴見歴史の会 齋藤美枝 ※文中敬称略

公開:2025年3月20日

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莫大な富を築く

 明治三十年代の吉田組は、岩城鉄道、官営八幡製作所建設のための八幡村海面埋立て・石垣工事、常磐炭田入山採炭鉱工事、常磐線、九州鉄道、関西鉄道、長崎線、舞鶴軍港、近江鉄道、京都鉄道、奥羽線、臨時台湾鉄道、北海道炭鉱鉄道、佐世保港埋築など、全国各地の土木工事を請け負っていた。最上川に築いた吉田堰は、庄内平野を美田に変えた。

 吉田寅松の吉田組は、藤田伝次郎の藤田組、鹿島岩蔵の鹿島建設と肩を並べる土木請負業者として全国の大規模な土木工事をいくつも請負っていた。古今に類を見ない女傑と言われた妻の芳子は、満州に進出した軍隊内の酒舗を引き受け采配していた。莫大な富を築いていた寅松は、大倉財閥の大倉喜八郎に並ぶ五万円もの多額納税者になっていた。

 寅松は、明治三十年には日清戦争時には戦役費一千円を献納し賞勲局から銀牌を、軍用品献納で賞状と木杯が下賜された。明治三十一年には、日本赤十字社東京支部に大倉喜八郎や安田善次郎、渋沢栄一らと同額の一千円を寄付し特別会員に列せられている。現在の貨幣価値に換算すれば一千五百万円から二千万円、多額の寄付である。

東洋のレセップス

 吉田組が請負った工事は難工事が多かったが、損得抜きで、公共に資することを第一義に取り組む吉田寅松は、スエズ運河をしたフランスの実業家レセップスにもたとえられていた。


 『立身叢談信用公録』に「土木家吉田寅松君及び令夫人 芳子君」が収録されている。

 「土木を以て長く世を利し、名を得たる英雄は少なくないが、フランスのレセップスがスエズの地峡を開削し、欧亜二大州の交通に利便を与えたことは最も偉大なことである。もし、吉田寅松が欧州の大陸に生まれ、文明開化の気風に浸漸していたなら、アフリカの大砂漠にニールの河水を潅がいして肥沃の新世界を造り、中央アメリカの地峡を切断して、欧亜の新航路を開き、またユーラシア大陸と北アメリカの間にあるベーリング海峡に橋梁を架け、南北地球の両大陸を連結してシベリア鉄道を北米鉄道会社の線路に接続するような偉大な人物である。

 しかし、不幸というべきか、アジアの東端の島国日本の農家に生れ、鎖国圧政の徳川幕府の時代に成長したため、知見を開き活用する機会が少ないなか、高邁な稟性から横浜全市の水運を完成し、市街の一半を埋立て、港湾ふ頭を開築し、滋賀県疎水の大工事に関係し、舞鶴軍港敷地の開鑿、官線・私設を問わず全国数十の鉄道工事を竣工し、港湾造築、道路開通、橋梁架設など、世の大工事は、君の手腕を借りなかったものはない」「幾多の困難を経て土木業吉田組を設立し、業務を繁昌させて全国屈指の大商店になし、今日の大名誉を博しているのは、慈母かく子の訓戒と、快闊明敏の天性の資質をもつ令夫人芳子の内助の功によるものである」

 寅松が志を立てて、家を出るとき、母かく子は涙ながらに訓戒した。

 「お前の不羈独立、大業を起こそうとする志はまことに嬉ばしい。私は、お前が必ず大業を成し得る人間であることを知っており、信じている。しかし、世の中すべての物事や人間には繁栄と衰退がある。すべてを失ってしまうこともある。この道理をわきまえて、進むべきときには大いに進み、退かなければいけないときは、その機会を見失わず、守るべきことは固く守り、手放すべきときには千金を惜しんではならない」

 寅松は、母の教えを一生涯胸に刻み、公正無私の志で国家的事業に挑みつづけ、多額納税者になっていた。

 明治三十年一月二十日、新橋花月楼で吉田寅松の還暦を祝う大宴会が開かれた。鉄道局長井上勝子爵の乾杯の音頭で開宴した宴会は三日間つづき、朝野の名士千人以上が来会した。祝電祝文、祝いの品々が次々届いた。吉田組の社員たちからは金杯が贈られた。祝宴に先立ち、寅松は、還暦を記念して東京慈恵医院に一千円を寄付した。

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