死はいずれ、誰のもとにも訪れる。最期を迎える日を思い描くのは難しく、わからないからこそ恐怖や不安な気持ちに苛まれたり、はたまた何も考えずに日々を過ごす人も多いだろう。私もこれまで死を「自分事」として意識したことはほとんどなかったが、ある日ネット上で「死の体験旅行」というワークショップがあることを知った。インパクトあるネーミングと「死を体験できる」という斬新さに興味を惹かれ、さらに担当エリアの横浜市神奈川区のお寺で実施されていることに縁を感じ、参加を申し込んだ。
「死の体験旅行」を企画・進行するのは、東横線東白楽駅徒歩1分の住宅街にある倶生山慈陽院なごみ庵の浦上哲也住職。お寺に入ると参加者たちは一人ひとり壁に向き合って席に着き、講座が始まるころにはお寺の電気が消されて、部屋には自然光だけが差し込む。薄暗さが広がる中で、まずは自分にとって大切な人やものをカードにひとつずつ書き込んでいく。それが終わると、ついに死を追体験する物語が浦上住職の口から語られる。主人公である私が突然病気に侵され、驚きながらも実感の湧かないまま、徐々に進行する病と向き合う。物語が進むごとに、自分にとって大切なものを悩みながら選び取り、一つ一つ手放していく。そして最後に残った1枚も、最期の一呼吸とともに手放す―。「いま、あなたは生きています。手放した大切な人やものは、あなたの手の中にあるのです」と言葉をかけられ、物語は終わる。
物語の間、最初はそれほど悩まずに手放すものを決めていた私も、終盤の数枚にまでなると手が止まり、失うことを想像しては涙がこぼれた。最後まで残ったのは大切な人やペットたち。ものや思い出は手放せても、大切な人たちはなかなか手放せなかった。会場中に参加者たちのすすり泣く声が響いていた。
ワークショップ後は参加者全員で意見交換。最後に残ったものや夢などを共有し合った。最後に残るのは大切な人ばかりでなく、大切にしている指針だったりものだったりと、人によって全く異なる面白さを実感するとともに、自分の考えがすべてではないことを感じることもできた。そして何より、「いま私はこんなにも大切な人たちやものに囲まれているんだ」という大切なことに気付かされ、悩みや悲しさが吹き飛ぶ心地よさを覚えた。
■死の体験旅行とは…
重病患者の緩和ケア(ホスピス)にあたるアメリカの女性看護師向けの講座を、浦上住職が性別・年齢問わず誰もが死を疑似体験できるようアレンジしたもの。10年ほど前に同講座の存在を知り、当時日本にわずかしかいなかったワークショップを行える看護師を探し出して仲間の僧侶と受講。仲間が感想をブログで書くと「受講したい」と反響が相次いだため、半年間の稽古を経て2013年からワークショップを始めた。なごみ庵や都内のお寺で毎月実施し、これまでに3500人以上が受講。半年待ちになるなど注目を集めている。
《なごみ庵》
横浜市神奈川区平川町21-7
【電話】045・491・3909
【URL】https://753an.net/
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