高津物語 連載第八七九回 「秋の夕」
「秋の夕」
佐藤惣之助
「かあさんと公園の乞食の子供がいった。
天の花を咲かせる天使というものは、あのホテルの扉の中にいるの。
いいえと、乞食の母親がいった。
天の花を咲かせる天使というものは、あの扉の外にいるのだよ。
でもと子供がいった。
扉の外にはボクたちだけではないの。」
「あなたと、ホテルに泊まっている花嫁がいった。
天の花のような幸福というものはこの扉の外にあるの。
いいやと、その夫がいった。
天の花のような幸福というものは、この扉のなかにあるのだよ。
でも、と花嫁がいった。
扉の中には私達だけではないの」
『あけぼの』初秋号第五巻第五号(昭和九年十一月号)の巻頭を飾った自由詩である。昭和九年六月に佐藤惣之助の発案によって、溝口亀屋に「国木田独歩の碑」が建てられた。溝口と国木田独歩との関係が、如何に深く、緊密なものであったかを佐藤惣之助が町の有力者に語り、その活動を具体的に、分かり易く説明し、説得した。そればかりか、佐藤惣之助は島崎藤村に碑文を書く様に懇願までしてくれたのである。まさに佐藤惣之助こそが、国木田独歩碑建立の最大の功労者と言って良い。佐藤惣之助なくしては、溝口亀屋の「国木田独歩文学碑」は建たなかったのだ。
冒頭の一句は、中河与一著『天の夕顔』を連想させるような、自由詩のようにも思えるが、理想郷は何の変哲もない、私達の極々素朴な日常の中にこそあるのだということを改めて云いたかったのではないか。
「あけぼのニュースは、あけぼの五周年記念大会は、菊薫る明治節の佳日、独歩の碑成る溝口亀屋料亭において開催され、一時廿分佐藤惣之助先生が飯田九一画伯の令嬢初枝さんと先着。…兼題「葉鶏頭」「短日」席題「菊人形」が課され互選、惣之助先生の朗々たる被講約一時間行った」と伝えている。
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