高津区に拠点を構え、数々のヒット作を世に送り出してきた人気脚本家の山田太一さんが亡くなった。生前、山田さんは津田山にある自宅から徒歩で溝口方面に出掛け、居酒屋などで飲食を楽しむ姿が幾度となく確認されてきた。また事あるごとに「地元に美味しいコーヒー屋さんがある」と触れ回っていたという。希代の名脚本家に癒しを与え、時に作品の構想を練るための重責を担ったともいわれる、その一杯とは、いかに―?
常連も来店、心待ちに
今から約15年前、山田さんが足繫く通うようになった店舗は「自家焙煎みずさわ珈琲店」(二子)。開店35年を数える老舗喫茶店として、多くのファンを抱える同店の魅力は、自家焙煎にこだわったコーヒーの味わいはもちろん、その庶民的な雰囲気。オーナーの小野衞さんは「(来店の)きっかけは、雑誌の取材を受けるために利用してもらったんです」と明かす。その後、山田さんが知人との待ち合わせで利用した際、相手が一向に現れず時間つなぎのために繰り出した懸命なトークも奏功。元々、飾らない気さくな人柄で知られる山田さんは、この店の雰囲気とマスターの人柄が気に入ったようで、それ以来プライベートでもコーヒーを飲みに来るようになったのだとか。「いつも滞在は2時間程度。同じ席に座り、コーヒーを嗜みながら新聞を読んだり物思いに耽っていましたよ」と小野オーナー。時には脚本家を志す若手を引き連れて来店し、熱い話に花を咲かせたり、居合わせた常連客とも気さくに会話を交わすなど、文字通り「行きつけのお店」として利用を重ねていたという。
またインタビュー番組の収録場所として同店を利用することも度々あり「そういう時は次の日に『昨日は迷惑かけた』とあいさつに来ていただいた。本当に気遣いのできる人だった」(小野オーナー・談)。いつしか、次回の来店を心待ちにする人も増え、偶然居合わせることが出来た幸運な常連が、お店を後にする山田さんを皆、直立不動で「お見送り」するのも常になっていたのだとか。近年は体調を崩し来訪もままならなかった山田さんに思いを馳せ「ぜひ元気になられたら、また当店のコーヒーを味わってもらいたかったのですが」と偲んでいた。
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