年間死亡者数が160万人に迫る「多死社会」の今、首都圏を中心に遺体の安置場所不足が深刻化している。火葬場の恒常的な不足や葬儀スタイルの変化が理由だが、葬儀業界の課題解決に、川崎の事業者の「冷蔵室づくり」のノウハウがひと役買っている。
総務省によれば、2022年10月から23年9月までの1年間の死者は159万5千人と過去最多で、同年10月1日時点の国内総人口は前年比で約60万人減の1億2435万人と、13年連続の減少だった。いわゆる「多死社会」を背景に、全国1230社の葬祭業者が加盟する「全日本葬祭業協同組合連合会」(全葬連)の担当者は「火葬を一定期間お待ちいただいたり、ご遺体の預かり場所が見つからないという状況は確かにある」と指摘する。
「遺体の安置場所が足りない。御社の技術で、遺体安置冷蔵室を作ってくれないか」
そんな依頼が川崎市幸区の「たつみ工業」に届いたのは、コロナ禍のただ中にあった2021年。首都圏の宗教法人が運営するセレモニーホールの一角を改装し、複数の遺体を安置する「遺体安置冷蔵庫」を設置したい、というものだった。
たつみ工業は1962年創業の断熱パネル専業メーカー。主力商品はコンビニエンスストアの飲料水用の冷蔵庫の空間を断熱パネルでくみ上げる技術とノウハウで、関東地域の約8割のコンビニの冷蔵庫は同社が手掛けたものだ。宗教法人から依頼を受けた当時は、コロナ禍の影響でコンビニ関連の発注が減少していたタイミングだった。岩根弘幸社長は「コロナ禍では葬儀も制限され、手厚く安置されるべきご遺体の状況も一変したと聞いていた。大切なご遺体とご遺族のためにうちの技術が役立つならと、快諾させていただいた」と振り返る。
安置室外で待機
従来型の遺体安置冷蔵庫は1〜2体用が多く、価格は一機200万円前後。一方でたつみ工業の手法では、空間に応じて最大30体までの「遺体安置冷蔵室」を設置できることから費用対効果が高く、業者の間で口コミが広がり発注が急増。2023年度の売上は22年度の23倍にも及んだ。
とりわけ都内の安置場所不足は深刻で、岩根社長は「30体分の安置室を設置した都内の葬儀場に社員が伺った際、安置冷蔵室の外で待機状態にある数体のご遺体があったと聞く」と話す。
加速する多死社会に対応が追いつかない現実もある中で、コンテナを使った利益重視の「遺体安置業者」まで出現しているという。
全葬連の担当者は、遺体安置場所の不足について「法整備が必要な段階だ」と指摘する。人が亡くなり埋葬されるまでの段階ごとに、医師法に基づく死亡診断から埋葬法までの法規制がある一方で、「遺体安置」の部分にだけ規制が何もない。「亡くなる方が今後も増えることは確実。国がこのまま放置すれば、ご遺体の尊厳を傷つける状況は避けられない」と警鐘を鳴らす。
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