自然を回復させている多摩川を、30年にわたり観察し続けている 中本 賢さん 俳優 60歳
死ぬまで、多摩川に夢中
○…「お気に入りのスニーカーを買って、川へ散歩に行ってごらん。ビックリするようなものがあるから」。多摩川流域に30年以上住み、都市と環境の共生を見守り続けてきた。寄り添ってきた雑草95種を一冊にまとめた、お散歩ガイドブック「多摩川ノート―土手の草花」を今春出版。自ら撮りためた景色や植物、昆虫の写真を盛り込み、ありのままの言葉で思いをつづる。「くだらないことが楽しい。面白いから夢中になる。本当にそれだけ」
○…東京都浅草で育ち、1976年に芸能界入り。独立後、29歳のとき多摩区の中野島に移り住み、20年ほど暮らした。当初、長男と2人で誰もいない多摩川にぶらりと遊びに行くと、目の前に広がっていたのはごみの山と洗剤の泡が浮く水面。そこで出会ったのは奇形のクチボソだった。持ち帰り、水槽で産卵に立ち会う。「生きようっていうバイタリティに感動した」。魚捕りが日課になり、当時は自宅に30近い水槽が並ぶように。魚の生態に親子で夢中になった。「面白さは30年前から変わらない」
○…日本中が猛暑渇水に見舞われた1964年。「あのとき、川崎の川や海がどうだったか思い出してほしい」。あれから数十年。人の手で下水道は整備され、アユの群れが見られる水質になった。「川(かわ)の先(さき)にあるから川崎。海や川の恵みが集まってアユ、ハマグリが再生する。それが誇りを持てる、世界をリードする川崎の価値」。地域の未来がどうあるべきか、教えてくれる川。それを伝えるべきだと力説する。
○…俳優業、川崎市教育委員会に身を置く傍ら、ボランティアで市内小学校9校を訪れ、総合学習で川遊びの楽しさを教える。「みんな夢中になって喜ぶ。問題じゃなくて価値に気づき、実感する。それが豊かさの根源」。土手の草花に価値を見つけ、「その子たち」にあいさつするために歩き、時折立ち止まる。「死ぬまでこの川で楽しみ続けたい」
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3月14日