重い心臓病のため昨年夏に心臓移植手術を受けた幸区の小学6年生、五十嵐好乃(この)さん(12)が、3学期から学校に通い始めた。一時は深刻な病状だったが、たくさんの支援と奇跡に恵まれ、笑顔を取り戻した。
「おはよー!」。1月末の寒い朝、好乃さんは笑顔で登校した。3年ぶりに復学した学校は、自宅から徒歩20分ほどの距離。当面は両親のいずれかが付き添うが、友達たちと元気におしゃべりするうち、あっという間に到着した。
この日は父の好秀さん(47)が後ろで見守った。数か月前には予想できなかった展開に、「幸せをかみしめている」という。
好乃さんは2021年春に難病「拡張型心筋症」と診断され、左心房に補助人工心臓を装着した。しかし「治療には心臓移植しかない」と宣告され、国内での移植を目指したが病状は悪化。両親は一日でも早い移植に望みをつなぎ、海外での移植を決断した。
奇跡が起きた
22年春には米国の病院での受け入れが決まったが、経費が高騰。見かねた友達の保護者らが同年秋に「このちゃんを救う会」を結成し、週末ごとに市内の主要駅で募金活動を実施した。同級生たちも「このちゃんを助けてください!」と声をあげ、全国の600近い企業に募金箱も設置。23年3月には目標金額の5億円を達成した。
しかし渡航準備に入ったところで、好乃さんの体調が一層悪化した。やむなく大阪の病院に転院し、右心にも人工心臓を装着した後で奇跡が起きた。「ドナーが見つかった」との連絡だった。その一報を病床で聞いた好乃さんは「うそでしょう?」と驚き、両親とともに涙を流した。好秀さんは「感謝しかなかった」と振り返る。
手術は無事成功。順調に回復し、長い入院生活で弱った脚力などのリハビリも頑張った。秋には主治医から「あと少しで川崎の家にも学校にも戻れる」と言われ、「みんなに会える!」と大喜びした。
お友達の分も
体育の授業中は国語の補修を受けるなど、まだ学校生活に制限はあるが、放課後はめいっぱい遊ぶほど元気になった好乃さん。将来の夢も、入院中は自身の経験から「患者を支える看護師になりたい」と話していたが、「助産師もいいね」「絵を描く仕事もいいな」などと、健康を取り戻したことで、どんどん広がっている。
一方で、「ドナーのおかげで生きている」ことを深く自覚し、移植した心臓を「お友達」と呼ぶ。そして、「お友達の分まで頑張る」が口癖になった。好秀さんは、「ドナーの方との奇跡的な出会いとたくさんの方々のご支援のおかげで、この素晴らしい日常がある。感謝しています」と語る。「救う会」の伊與部崇さん(46)も、「活動が実を結んで本当によかった」と話していた。
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