市政報告 地域医療に求められているのは「医療の公共性」 川崎市議会議員 三宅 隆介
●行き場のない患者問題
先日、多摩区にお住まいの、ある高齢者が自宅で転倒されました。
転倒時に腰を強く打たれ、お身体の自由が利かなくなってしまったために救急車で市立多摩病院に運ばれました。診療の結果、そのまま市立多摩病院に入院することになったのですが、さっそく回復期病床か療養病床をもつ病院への転院を促されています。
運良く病床に空きがあればいいのですが、私たちの住む川崎市北部には回復期病床や療養病床そのものが少ない上に、稼働率は95%を超え常に満床状態といえるのが実状です。また、特別養護老人ホームもかなりの順番待ちの状態で、医療依存度の高い人は断られる可能性も高い。最悪の場合、クルマで2〜3時間もかかり、なかなかお見舞いにも行けないような遠方の療養病院か、医学的ケアが比較的しっかりしている高額な有料老人施設に入院入所しなければならなくなります。
これが、私が再三にわたり警鐘を鳴らしてきた「行き場のない患者」問題です。
その地域にお住まいの患者さんが、その地域の医療圏に属する病院に入院できる割合のことを「自己完結率」と言います。多摩区を含む川崎市北部医療圏の自己完結率(療養病床入院)は、なんと42・89%です。要するに、療養病床を必要とする患者さんの半分以上はよその医療圏に回されてしまうわけです。
●川崎市北部は高齢化スピートが最も早い地域
その地域の高齢化率が加速度的に高まっていくことを「高齢化スピード」と言いますが、私たちの住む川崎市北部は全国で最も高齢化スピードが早い地域です。よって、急いでこの地域(北部医療圏)の回復期病床、あるいは療養病床の数を増やしていかねばなりません。それを怠ると、行き場のない患者を増やしてしまうとともに、救急医療にも支障をきたすことになります。
救急医療への支障とは、せっかく患者を救急車に載せても、受け入れ病院を探すために救急車の現場滞在時間を長くしてしまうケースが増えてしまうことです。なぜなら、長期入院となる可能性の高い患者さんの受け入れを、意図的に拒む病院がでてくるからです。(一般病床で長期入院の患者さんを入院させると、その病院の経営を圧迫する)
●病床を差配する権限を「公」に
一方、市内には、病床稼働率が常にフル稼働の療養病院から、4割近くが未稼働の急性期の病院まで様々です。空き病床がありながら、多額な補助金がなければコロナ患者の受け入れに消極的な民間病院さえありました。
なお、今年1月に会計検査院から、新型コロナウイルス感染症患者受入れのための病床確保事業等の実施状況等について、驚くべき内容が公表されています。病床確保料として補助金を受け取りつつも実際には稼働できる状況ではなかったり、病床確保に伴う機会損失を大きく上回る補助金を受け取っていた例があると指摘されています。また、3月には神奈川県内の76の医療機関に対して、新型コロナ患者のために確保した病床に対する補助金がおよそ88億円過大に交付されていた可能性があることもわかりました。
ここに、わが国の医療制度の大きな問題点があります。本来は地域の公共財であるべき「病床」が、わが国では事実上病院固有の財産とみなされています。
そこで私は、病床配置や配分を差配する決定を、利害関係者である医療関係者が集まった「審議会等」での審議に丸投げすることなく、国や地方自治体が直接行うことを提唱しています。
因みにこれは、法的な最終決定権者である都道府県知事の権限内で可能であると思います。
例えば、政令指定都市にその医療圏の病床を差配させることを認め、それを県知事が追認すればいいだけです。
●新百合ヶ丘総合病院に「三次救急」の認可が下りない理由
しかしながら、現在の神奈川県知事の場合、そうした権限を行使しようとせず、前述した地元の医療利害関係者らで構成する「川崎地域地域医療構想調整会議」という機関にそれを委ねています。
例えば、麻生区にある新百合ヶ丘総合病院は、三次救急(最もハイレベルな救命救急医療に対応)に必要な人員と機器と技術を確保し、神奈川県知事の認可さえあれば直ぐにでも稼働できる体制を整備しているのですが、神奈川県知事は前述の「川崎地域地域医療構想調整会議」にその審議を委ねているために、審議会の反対にあってなかなか認可が下りません。
解りやすく言うと、その地域に新しいコンビニを開設する際、ライバル経営者で構成されるコンビニ業界に「その開設を許可するかしないか」の権限をもたせているも同然です。
その会議では、例えば「三次救急を認めると二次救急が手薄になる…」とか、「医療人材の奪い合いが起こる…」とか、本当に起こるかどうか分からないような理由で反対しており、少なくとも一般市民には自分たちの権益保護のようにしか映りません。実際にそのような事態が発生したら、速やかに許可を取り消せばいいだけの問題かと思います。
因みに、三次救急になったら二次救急の患者を受け入れなくなることはありえないと医療経営の専門家は言っております。おそらく反対する人たちの本音は患者を奪われるのが怖いからではないでしょうか。要するに二次救急は患者数からも病院にとっては重要な収入源だからという理由です。なお、患者に二次救急患者とか三次救急患者とか印がついているわけでもありません。むしろ三次救急になると設置基準の上からも優秀な医療スタッフが大幅に増えますので、二次救急患者の受け入れ能力は格段に上がるはずです。即ち、新百合ヶ丘総合病院が三次救急対応してくれることになれば、川崎市北部の医療体制のレベルは着実に向上するはずです。
あるいは反対派が主張する「医療人材の奪い合い…」については、憲法上の職業の選択の自由を無視するに等しい発言です。よりよい条件の医療機関で働きたいというのは医師や看護師等にとって当然の権利です。そのために病院経営者は日々努力すべきであり、医師や看護師が働きたくなるような病院を認めないという時代錯誤の発言にはただただ唖然とせざるを得ません。
●公共財としての医療
何度でも言います。病床は公共財であり、医療機関の固有財産ではない。三次救急に手を上げている医療機関があるのであれば、それを認めるのは地域医療に責任をもち監督する立場にある自治体であるべきです。
今、地域医療に求められているのは、医療の公共性です。
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6月28日