視覚障害者にとって、通勤などの移動は「命の危険」を伴う行為でもある。障害者就労支援に取り組む「ダンウェイ」(中原区、高橋陽子社長)では、視覚障害のある女性社員の「通勤は難しい」という不安に徹底的に寄り添い、在宅勤務で働ける形を整えた。女性は会社との「建設的対話」で雇用をつないだ自身のケースを、県内外の企業研修などで積極的に発信している。
ダンウェイでプロジェクトマネージャーを務める有友明子さん(61)は、朝9時の始業時刻になると県内の自宅でパソコンを立ち上げる。現在はオンラインミーティングの司会進行や議事録作成のほか、新たなプロジェクトのたたき台を作るなど、在宅勤務で幅広くマネジメント業務を担っている。
有友さんが在宅勤務に切り替えたのは、国内で新型コロナウイルスの感染が拡大する直前の2020年1月。進行性の難病「網膜色素変性症」を患う有友さんの症状が進行したため、自身も家族も「もう通勤は難しい」と考えた。
会社側にそう告げたところ、社長の高橋さん(50)が「オンラインでの働き方を一緒に考えよう」と提案。会社で利用する大型のモニターや、凹凸があり指先に情報が伝わりやすい仕様のキーボードなど一式を自宅にも整備。ネット環境も整え、業務内容も在宅で可能な内容に修正した。直後にコロナ禍が始まり、オンライン就労が一般的になったが、有友さんは「通勤がなくなることには安堵したけれど、在宅勤務は初めて。不安でいっぱいだった」。その都度、会議のやり方などを見直し、持続可能な形に修正を続けてきた。
20代までは症状も軽く生活に影響しなかったが、30代に症状が進み、障害者手帳を取得した。進行すれば視覚を失う病気だけに、40代で障害者としての就労の必要を感じ、2011年1月に創業したばかりのダンウェイの求人に応募した。
当時の住まいからJR武蔵新城駅前の事務所までは、3回乗り換えて片道約1時間半の距離だった。だがダンウェイでの就労を検討中、視覚障害者がJR山手線のホームから落ち、電車にひかれて亡くなる事故があった。「やっぱり辞めようか」。迷う有友さんに、高橋さんは時差出勤や週4日勤務など、取りうる対策を提案。「この会社なら」と思え、同社の「社員1号」となった。
今年で勤続14年目を迎え、会社が受託した静岡市の事業では、障害者就労支援の実例として講演する。「私たち障がい者は周囲の助けなしではできないことがたくさんあるけれど、会社は建設的対話を続け、柔軟に対応してくれた。自分の経験が、障がい者の就労を後押しできればうれしい」と話していた。
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