文化勲章を昨年受章した中原区在住の化学者、藤嶋昭氏(76)が「川崎市名誉市民」へ――。きょう16日の市議会で議決される見通しだ。51年前に発見した光触媒の研究を通じた科学技術の普及、教育分野への功績などが称えられた。
川崎市名誉市民は、市にゆかりがあり市の発展や文化の進展など卓越した功績を残した人などに贈られる称号。過去に4人が選ばれており、藤嶋氏は芸術家の岡本太郎以来25年ぶり5人目となる。藤嶋氏は、「川崎市に住んで48年になるが、愛すべき街からこのような評価をいただき大変光栄」と笑顔をみせた。
藤嶋氏は1967年、酸化チタンに光を当てることで空気や水の浄化などにつながる人工光合成効果の「光触媒反応」を発見した。以降、神奈川科学技術アカデミー(高津区)を拠点に、幅広い分野への実用化に向けて研究にまい進。その効果を市民が理解、体験できる「光触媒ミュージアム」を同区に開設し、科学の普及に努めた。
12年前には、市内の研究機関や企業の研究者、技術者が集う場「かわさき科学技術サロン」を開設。今も年3回行い、川崎のイノベーションを活性化させている。藤嶋氏は「川崎はレベルの高い企業が集積する素晴らしいまち。刺激しあうことで新たな可能性が生まれている」と目を細める。
後進育成に尽力
藤嶋氏は教育にも熱心に取り組んできた。「子どもたちに理科の楽しさを教えたい」と、理事長を務める公益財団法人東京応化科学技術振興財団(中原区)を通じて、市内の小中学校へ科学の本寄贈を30年以上続けている。併せて、理科教室を開く人などへの活動費支援も行ってきた。市内の研究機関や企業の技術を紹介する中学生向けの副読本の刊行も手がけた。
最近では小学校での出前授業を積極的に引き受け、「子どもの視点は本当に面白くて、勉強になることが多い。何事も不思議に思う気持ちが大切」と藤嶋氏。子どもたちが書いたアンケートには全て目を通し、質問には直筆で答えている。
光触媒技術医療に応用へ
市内の駅や看板、校舎、区役所などの施設に活用されている光触媒技術。インフルエンザや歯周病対策など医療分野への応用も視野に入れている。「世界ではマラリアなどで命を落とす子どもたちもたくさんいる」。光触媒技術を生かした蚊取りプロジェクトにも、力を入れていく方針だ。
研究者として研さんを積む傍ら、日々心がけるのは規則正しい生活だ。毎朝4時に起きて新聞や本を読み、多摩川沿いを散歩。その後、妻と近くの公園へラジオ体操に行く。「同じ道を歩いていても日々変化していて、不思議はたくさんある」。セミはなぜ夏と分かって姿を現すのか、木の年輪の中心の細胞は生きているのか――。何気ない日常の中にある、新たな発見を今後も探求し続けていく。
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