男子バスケットボール・Bリーグ1部の川崎ブレイブサンダースの大黒柱として12年、プレーを続けたニック・ファジーカス選手(38)が、今季限りで現役を退いた。5月30日、とどろきアリーナ(等々力)で引退試合が開かれ、会場を埋め尽くしたファンの歓声と拍手に包まれながら最後の雄姿を披露した。
試合時間は残り約2秒。藤井祐眞選手のスローインから、現在は群馬でプレーする辻直人選手がシュート。ボールがニックの右手に阻まれた瞬間、ブザーが鳴った。試合終了。ニックは両手を大きく広げた。
とどろきアリーナで開かれた引退試合「ニック・ザ・ファイナル」。ブレイブサンダースの現役選手に加え、辻選手のような移籍組や引退組、そしてNBAから日本に戻った渡邊雄太選手までもが川崎にかけつけ、「ビッグマン」のラストマッチをエンタメ要素たっぷりに盛り上げた。
ニックも「アリーナに来て知った」と驚くサプライズで登場した渡邊選手は、2019年のワールドカップで日本代表として戦った仲間。試合前のインタビューで「ニックから本当に多くを学ばせてもらった」と賛辞を送り、会場を沸かせた。
日本の選手に勇気
米国コロラド州出身のニックがブレイブサンダースの前身「東芝」の企業クラブに移籍したのは12年8月だった。207センチという長身を生かした得点力と比類なき闘争心を発揮し、常勝チームへと引き上げた。18年には日本国籍も取得して日本代表入りを果たし、強豪のオーストラリアを死闘のすえ破り、ワールドカップ予選を突破する原動力となった。
ニックも記者会見でこのオーストラリア戦を振り返り、「自分自身、あの勝利に大きく貢献したと思う。あの試合が日本のバスケ界を変えたと色々な人から言われるが、そうならばとても嬉しい」と語った。
監督としてニックを川崎に招致した北卓也ゼネラルマネージャーは「ニックは賢かった」と称賛した。「日本のバスケになじめない外国人選手もいるが、彼は自分が日本のバスケにフィットするように考えて行動した。そして彼の攻撃力が、国際舞台で弱気になりがちな日本人選手に勇気を与えてくれた」
川崎や日本代表の仲間であり続けた篠山竜青選手も「勝者としてのメンタリティーを教えてくれた」と感謝を述べた。「アジアでも勝てなかった日本代表に『どこが相手でも勝つ』という決意をもたらした。あのオーストラリア戦で、そういうものが日本のメンバーにガシッとはまった」
Bリーグ通算9552得点は歴代2位。引退試合の後、チームからは背番号「22」を永久欠番とすることが発表され、翌31日にはBリーグから「功労賞」を贈られた。
プロスポーツの世界で10年以上も移籍しないケースは珍しい。記者会見でその理由を問われ、ニックはこう答えた。「移籍のチャンスはあったが、チームもこのアリーナもステップアップしてくれた。『川崎といえばニック、ニックといえば川崎』といわれることは誇りだった。川崎から離れる選択肢はなかった。川崎で過ごした12年は本当に特別だった」
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