川崎区鋼管通の北條鉄⼯の5件の建造物が国登録有形⽂化財(建造物)となる見通しとなった。国の⽂化審議会が7月19日、盛山正仁⽂科大臣に答申した。登録されると川崎市の国登録有形⽂化財(建造物)は計10件になる。
高度成長期の工場地帯を伝える建造物
登録対象となるのは、同社の事務所、原寸⼯場、旧シャーリング・製⽸・ロール⼯場、クレーンヤード、材料置場でいずれも鉄骨制作事業を支えてきた主要工場施設。市教育委員会によると、同社周辺にはかつて日本鋼管(現JFE)、昭和電線電纜など大規模な工場が立地。2000年代以降は工場移転などで住宅や高層マンション、商業施設が立地している。日本の工業や経済発展の中心をなす工業地帯であったことを伝える貴重な建造物として評価された。
事務所は鉄骨鉄筋コンクリート造と鉄骨造3階建てで3階の門型ラーメンには戦後隆盛した丸鋼のラチス梁が使われている。高度経済成長期の工場事務所の好例という。また、原寸工場は、鉄骨の溶接や原寸図を作成した、桁行35メートルの鉄骨造三階建作業棟でチョークなどで描く原寸図用の床が残る。クレーンヤードは内部に天井走行クレーンを三列収容するのが特徴的だ。事務所や原寸工場については現在、撮影スタジオとしても活用されている点も国登録有形文化財に相応しいと答申された。今後、官報告示をもって正式に登録される予定。
国登録有形⽂化財は建設後50年を経過した歴史的建造物のうち、⼀定の評価を得たものが登録されている。市内では、これまでに川崎河港水門▽ 昭和電⼯川崎⼯場本事務所 ▽ ⼆ヶ領用水久地円筒分水 ▽旧原家住宅表門▽旧原家住宅稲荷社の歴史的建造物が国登録有形文化財(建造物)として登録されている。
地域貢献できる施設に
登録の見通しとなったことを受け、同鉄工所を営む北條裕明社長は「可能な限り保存し、地域に生かしていきたい」と思いを新たにした。
鉄工所のある地域はかつての工場地帯から高層マンションが立ち並ぶ住宅地へと変貌。時代の変遷とともに大型の鉄骨作業スペースは必要なくなり、「それまでの工場のあり方からもっと地域に貢献できる工場にできないか」と考え始めた。20年ほど前のことだった。
そんな中、近くで文化的活動をしていた建築家の渡辺治さんとの出会いがあった。「工場の建物に価値がある。一緒に生かすことを考えよう」と背中を押され、以来、北條社長と渡辺さんの二人三脚で建物の保存と活用策を考えた。2007年には一緒に渡英、かつての工場が美術館になっている例や、演劇でまちの再生を果たした、シェイクスピア誕生の街、ストラトフォード・アポン・エイボンなどを訪れ、現在の工場をもっと地域に開いて、文化や教育のために生かすイメージを育んだ。
渡辺さんは6年ほど前から、北條鉄工の資料を整理し、図面をおこし、北條鉄工の文化的な価値を示す膨大な資料を作成。今回の国登録指定文化財への申請の資料などを作り、川崎市に申請した。渡辺さんは将来に残すべき価値があると気づいた時、それを明らかにして、将来に受け渡すことは、自分の役割であるということを感じたという。
国登録有形文化財に指定されたのを契機に北條社長は「地域の子どもたちのイベントの場や川崎の鉄の歴史の社会学習の見学場所などに使っていただきたい」、北條功専務は「広く地域に貢献できる施設を目指したい」と述べた。
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