第78回読書週間では11月9日まで、各地で読書イベントなどが開かれる。宮前区在住の書評家・東えりかさんも、川崎市制100周年を記念したトークイベントを地元で開催する。東さんが薦める「川崎を知る本」の後編をお送りする。
読書週間は1947年に始まった。敗戦の傷跡が残る中、「平和な文化国家を作ろう」という機運のもと、出版界や書店や新聞・放送業界が協力し、11月の「文化の日」を軸に指定したものだ。
読書週間は戦争の歴史への反省から始まったが、東さんは「国や地域のつらい歴史を知ることも大切なこと」と語る。「川崎も『怖い』とか『危ない』とかいったイメージで語られがちだが、それも川崎の歴史なので」と挙げたのは、時代が異なる事件を追った2つのノンフィクション作品だった。
2006年刊行の奥野修司さん著『心にナイフをしのばせて』(文春文庫)と、17年刊行の石井光太さん著『43回の殺意』(新潮文庫)だ。
川崎が憧れの街に
『心に〜』は1969年、高校生が同級生を殺害した事件の「後日談」を追ったルポルタージュ作品。著者は被害者の遺族の苦悩と、更生して成人となった加害者の内面に迫る。一方の『43回〜』は15年2月、中学1年生の少年が川崎区の多摩川河川敷で殺害された事件の背景を追った。「どちらもつらい事件だが、時代の世相が背景にある。一読の価値はある」と東さんはいう。
同じ15年の事件を扱いながら、『43回〜』とは趣が異なる1冊も挙げた。音楽ライター・磯部涼さんの『ルポ川崎』(新潮文庫)。「川崎のイメージを、若者の憧れの街へと変えた名著」と称賛する。『ルポ川崎』は、事件に関わった少年たちが生きる街を歩き、街から立ち上がる「路上文化」を描き出した。
「工業地域特有の環境や、構造的な貧困と階層社会に負け続ける親たち。ヒップホップが生まれたアメリカのダウンタウンと重ね合わせ、川崎から世に出たヒップホップアーティストたちの群像を見事に描いている」と東さん。事実、作中の「BADHOP(バッド・ホップ)」はヒップホップ界のカリスマとなり、今年2月の解散コンサートは超満員だった。
最後に東さんは、萩坂昇さんの『かわさきのむかし話』(北野書店)を推薦した。「日本中にある昔話が川崎でも語り継がれてきたことは、意義深い」。萩坂さんは、1950年代後半から市内の民話や昔話の聞き取りを続け、本を手作りし、学校を回って販売した時期を経て、70年に『かわさきの〜』を出版した。
以後も昔話の本を書き続け、2003年に他界した。今年は萩坂さんの生誕100周年。甥の萩坂心一さん主宰の「かわさき民話を愛する会」では、9月に中原区で記念イベントを開催した。心一さんは「昇さんの『川崎をふるさとと呼べる街に』『昔話は心のごちそう』という思いを継承していく」と話している。
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