川崎区中島にある市立川崎高校定時制で週に一度開かれるフリースペース「ぽちっとカフェ」が、10周年を迎えた。カフェで雑談しながら友達や地域の大人たちと繋がる居場所として2014年に同校で始まり、市立の定時制高校の全校に取り組みが広がった。ティータイムのさりげない雑談を通して、生徒たちをそっと支え続けている。
11月15日の夕方。川崎高校定時制の入り口付近のフースペースに、「ぽちっとカフェ」と書いた看板が立った。各テーブルにお菓子の入ったかごが置かれ、スペースの片隅にはインスタントコーヒーや紅茶のティーバッグ、清涼飲料水も。午後5時半すぎ。生徒たちがカフェにやってきて、好きな飲み物を手に座り始めた。様子を見て、待機していた大人たちも雑談の輪に入っていく。
これは毎週金曜日に同校で続く「居場所カフェ」の取り組みだ。授業終了後、生徒たちはここで気ままに過ごしていく。2023年度の利用者数は、のべ約1500人。実質利用者数は143人で、定時制の生徒の約6割が利用している。
カフェを運営するのは、社会福祉法人青丘社の「川崎市ふれあい館」(川崎区桜本)。副館長の鈴木健さん(50)が中心となり、午後9時の閉店まで、ボランティアたちと共に生徒に寄り添う。
大切な「第3の大人」
カフェは14年10月に市の福祉施策として始まり、15年度から市教委の生徒支援事業として橘(中原区)、高津(高津区)、川崎総合科学(幸区)の、市立の定時制高校に取り組みを広げた。
当初は「やんちゃな子が多い印象だった」と鈴木さん。しかし10年の間に定時制の役割も変わり、小・中学時代に学校に行けなかった子どもたちが急増。カフェの存在感も増している。
同校(定時制)の藤山昭子教頭は、カフェの重要性をこう語る。
「不登校を経験した子どもたちにとって、教師や親以外の大人と気軽に話せる場の存在は、社会生活を送る上での安心感につながる。そして同じ境遇の子など、多様な生徒との交流を通して、学校生活に定着してくれているように思う」
鈴木さんも、不登校経験のある生徒との雑談の中で、「いま通学できている理由」を尋ねたことがある。生徒はこう答えた。「不登校だったのは自分だけじゃないと気付けて、安心できた」。市教委の担当者も、「この事業を通じて、不登校を経験した子どもたちに『第3の大人』が寄り添う意義の大きさを痛感している」と語る。
そして近年の「ぽちっとカフェ」の人気企画が、隔週開催のフードパントリーコーナーだ。無料で食糧を持ち帰れるとあって、授業が終わると生徒が殺到し、お目当ての食糧を袋詰めして行く。この日は10分ほどで品薄になった。
地域に密着した「ふれあい館」での活動を通じ、鈴木さんは「様々な支援が必要な子どもは、決して少なくない」ことを知っている。そのため食糧のみならず、年に2回は区の保健師や心理士、栄養士などが同席する「相談カフェ」も開いてきた。こう語る。「相談できる先があることは人生のセーフティーネットになる。彼らが社会に出る前に、子どもの困りごとに寄り添える大人が地域や社会にはちゃんといるということを、しっかり伝えたい」
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