富士通スタジアム川崎(川崎区富士見)に旧川崎球場時代から残る照明塔のモニュメント化について、川崎市は照明塔の建つ現在の場所での部分保存も選択肢の一つとして検討するとの新たな見解を示した。ただ、請願者側には「完全保存」の声が根強く、市側の意向とは大きな隔たりがある。
川崎市は8月3日、川崎球場時代の遺構の市文化財登録を求める請願書を一昨年10月に市議会に提出したメンバーと、同スタジアム内で協議。この中で市は、3基ある照明塔を分割して解体撤去し、廃材となった鉄塔の一部を使いベンチなどにしてモニュメント化。鉄塔のある場所から離れた所に設置する案などを示した。これに対して、請願者代表でフリーアナウンサーの松本秀夫さんは「照明塔がここにあったということを訪れた方が見る。遺構が残っていたら訪れた人たちはその先を想像することができる」と意義を強調した。出席したメンバーからは「城は石垣が崩れようが当時の姿が残ることで歴史好きの方が訪れている」といった意見もあがり、現在の場所でのモニュメント設置を求めた。これを受け、市は「土台をそのまま残すのは厳しい」としながらも検討を表明した。
市側「完全保存はない」
一方で市は照明塔の完全保存については行わない方針を改めて請願者側に示した。照明塔は現在、さびの発生や部材の一部に変形が見られ、市側は安全面を懸念。倒壊すれば「行政の不作為責任」の問題にも発展しかねないという。また、耐震補強を施した上で保存したとしても、照明塔の構造自体が今の建築基準でないことや当時と同じ形の部材も使えず、補強後の完成した姿は別の形になり、「歴史的価値はない」と判断。コスト面についても調査費だけで概算で4、5千万円はかかるとし、補修費は新築費用の倍のコストが必要との見解を示した。照明塔の新築費用は7〜8億円程度という。市は修繕費に加え、維持費もかかるとも語った。ただ、請願者側が保存を求めていた外野フェンスについては「そのまま残す」と述べた。
請願者「検討過程に疑念」
市の回答に対し、請願者側は一定の理解を示しつつ、完全保存の検討を止めたことに対する遺憾の意や検討の過程への疑念を示す声もあがった。完全保存については、「照明塔が遠くから見える『景色そのもの』が人々の記憶に残り、今につながっている。それが現存しているからこそ価値があり、遺構と言えるはず」と主張。「照明塔がばらばらにされたものや土台だけ残したところで果たして遺構と言えるのか」と疑問を呈する声も聞かれた。ロッテオリオンズの応援団を務め、千葉ロッテマリーンズの職員としてスタジアム運営などに携わった横山健一さんは、約30年前に明治神宮球場の照明塔の解体作業があった事例を紹介。技術的なアイデアがあるのではと語った。
また、市側が提示した費用については「どれだけ精査された金額なのか」との意見もあがった。インターネットで資金を募る「クラウドファンディング」が可能であるならばやってみたいと市に再考を求めた。請願者らは「完全保存はない」という市の回答に対し、現在、対応を保留している。
照明塔は高さ39メートルで1954年に設置、61年に改修された。市によると、改修当時は日本一の明るさを誇っていたという。市は来年度から順次撤去する準備を進め、モニュメント化にあたっては、コンサルタント業者と委託契約を交わしている。
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