世界が直面する多くの課題。SDGsは、これらの課題を解決しうる可能性を秘めている。持続可能な未来をめざす上で、相模原からできること、そして私たち市民がなすべきこととは。ともにSDGsを推進する相模原青年会議所(JC)の宇田川隼理事長と相模原・町田大学地域(さがまち)コンソーシアムの学生の会話から、SDGs達成へ向けた「可能性」を探る-。(聞き手:さがみはら中央区編集室 記者 町田優依)
「SDGsを楽しめばいい」
--まず、それぞれの団体でSDGsを推進するようになったきっかけを教えてください。
宇 2015年の9月に国連加盟の193カ国で採択されて、2030年までにSDGsを達成しようと目標が掲げられました。JCには日本青年会議所という組織があって、そこが日本中で一番SDGsを推進する団体であるという自負のもと、全国でSDGsを推進しています。我々相模原JCも昨年7月頃からSDGs推進の準備を行い、今年から相模原市と一緒にSDGsを進めていきましょう、という形で始めたのが推進のきっかけです。
後 私たちは神奈川県から「SDGsの内容を大学生の世代に広めてほしい」という依頼を頂いて、世界規模の話でとても大きなものと感じてしまったのですが、それを大学生の目線で自分事に落とし込んでみて、それぞれが選んだSDGsのテーマで企画や取材、発信をしました。
宇 すばらしいですよね。SDGsって世界でやってることで、遠すぎてなかなか自分たちの中に落とし込めない。
後 大学生だからできることって何だろうと考えたときに、自分事に考えるのが一番の近道かなと思ったんです。世界規模のことだけど、自分自身の周りとか大学生活とかに置き換えられることがあったらいいなっていう基盤で考えてみました。
宇 大学生の目線って話が出たと思うんですが、我々も全く同じ発想でやってるんですね。我々は中小企業の経営者を中心とする団体なんですが、中小企業だからやれる強みって何だろうという前提でやっているんです。大学生は大学生の強み、中小企業は中小企業の強みで、我々にできることは何かっていうと、地域の中小企業が企業活動を通じて社会を良くしていければいいなと思っています。まずSDGsを推進してくれる企業を増やしたいと1年間やってきまして、今年の7月末ぐらいに200社を達成しました。そのきっかけとして3月には相模原市と相模原JCとで共同推進宣言を締結していて。大学生、中小企業、そして行政、それぞれできることを一緒にやっていけたらいいですよね。
石 中小企業の方も私たちも、世界規模だからとかじゃなくて自分事として考えてみる、っていうところがすごく身近に感じます。
--SDGsを行うことはなぜ大切なんでしょうか。
宇 SDGsが掲げる17の目標を否定する人は誰もいないと思うんです。世界193カ国が全会一致で合意したというのは実はかなり稀有なんですね。それがすごく大事だと思っていて。初めて世界が共通の目標を手に入れることができたと思っています。そこに私は一人の人間として可能性を感じているんです。
山 男女格差を無くすとか、世界で問題になっていることが全てこの17項目に表れている。世界が抱えている問題を自分でも考えなければいけないし、改めて考えさせられるなと思いました。
後 私は正直、お話しを頂くまでSDGsの存在を何も知らなくて。けど目標を見たときに何ひとつ欠けてはいけないと思ったのと同時に、活動する中で当たり前のことを当たり前にやれば防げるんじゃないかなって感じたんです。でも当たり前のことを当たり前にするって、大切だけど生きてる中で一番難しい。そこをどれだけの人が守れるかがすごく大切になってくると思いました。
宇 いま改めて思ったのが、SDGsの17の目標の中の17番に、パートナーシップがある。SDGsがなぜ大切なのかというと、大きな部分にこれがあると思っていて。今までつながりのなかった人たちがつながることができるし、それによって相乗効果が生まれる。当たり前のことを当たり前にできる社会が難しいと言われた時に胸をつかれたんですけど、これからの未来を担う学生の皆さんにそう言わせてしまう我々世代が、しっかり当たり前のことを当たり前にできているんだぞ、と言える社会を作ってあげないと次の世代に良い社会を渡してあげられない。私たちが良い社会を渡して引き継いであげれば、多分皆さんは皆さんのお子さんに対して同じようにしてあげたいと思ってもらえる。そういった好循環を作るのは大事なのかなと感じました。
--学生の方々が、さがまちの活動の中で当たり前にやるべきだと感じられたのはどんな時ですか。
後 たとえば「海の豊かさを守ろう」という項目で、私自身がさがまちの活動でこのテーマについて取り組みました。江の島の海岸の清掃に行って、とりあえず今ゴミがどのくらいあるのかを石井さんと一緒に見たんですけど、何でここに落ちてるの?って不思議に思うようなゴミがたくさんあって。一番多かったのがなぜか陶器の破片で、危ないじゃないですか。海ってゴミ箱があるところは少ないし、しっかり自分の出したゴミは持って帰ってほしいって実感しました。
山 私は「つくる責任、つかう責任」の項目で、物々交換をさがまちでやってみたんですけど、全然使っていない新品の文房具なんかが使ってくれる人にちゃんと渡ったりして。物を大切にしようっていうか、親戚とか知り合いとか使ってくれる人に渡すだけでもSDGsに貢献しているのかなって思いました。
宇 大事なのは取り組む中で気づきがあること。こういうことが大事なんだなとか、この歳になってこんなこともやってなかったんだなとか。あとは、行動を起こさないと何も始まらない。自分の頭の中だけではどんなにすばらしいアイデアでも何も変えられない。行動に起こすことによって変わる可能性が生まれるんです。それによって気づきが生まれるから、その気づいた思いからまた行動に変わっていく。社会を変えよう、世界を変えようというのがSDGsなんですけど、実はどこが変われるかっていうと、自分が変われるんだなと聞いててすごく思いました。そこがSDGsの良さじゃないかなと。
--SDGsにつながる取り組みを行う中で、自分が変われたという実感はありますか。
後 結構あります。海岸の清掃で「ゴミをちゃんと捨てなきゃいけない」「分別も大事」「それはリサイクルにつながる」「そしたらこれはつくる責任、つかう責任だな」とつなげることができた。そういった発想のつながりを持てるようになったのは自分の成長になっていると感じます。
石 私も海岸の清掃活動をしていて、プラスチックの破片なんかが結構埋まってて危ない、プラゴミって残るんだなって。大きな企業とかがプラゴミを無くそうって運動をしているのを身近に感じました。日常生活の中でもプラゴミをなるべく出さないように意識するようになって。そういうことでも減らせると思うし、自分の中で一番意識が変わったことです。
山 私はこの前カフェに行ったときに初めて紙製のストローを使う機会があって。ファミレスでも「ストローください」って言わないともらえなかったり。そういうお店の取り組みなんかを意識して感じることができるようになりました。
宇 僕も皆さんと感じていることは全く一緒で、普段何気なく通り過ぎていたことに意識が向けられていると実感します。人間って常識や経験から無意識に通り過ぎていること、脳が意識的に動いてないけれど行動していることってたくさんある。その無意識の側面を意識的に変えていくことで変わることはものすごくあって、皆さんの話を聞いてそれを改めて実感させてもらいました。
学生らしくできることを
--SDGsをよく知らない人が、自分事としてとらえるために大切なことは何でしょうか。
後 私も最初は、青年会議所の方は私たちとやっている規模が違うなと思ったんですけど、私たちもできることをやれば良くて。学生はちょっとあやふやでも行動してみることができて、軽い気持ちで始められることも正直学生の強みなのかなって感じました。社会に出た方も、そういう風に自分たちでできることを強みに感じて行動するというのは共通していることなのかなって、大きな発見になりました。
宇 実はそこはすごく大事なことだと思うんですよね。学生の方は強みとしてまず深く考えずに動いてみればいいやってお話しをされたんですが、それがものすごく大事で。社会がなかなか行動できない時代になってる中で、大人たちもそれで苦しんでいる部分が正直あります。けど何が大事かっていうとまさにその話で、まずは深く考えずに行動してみる。なにも事業計画なんか作らなくてもできることはたくさんあって、資源の無駄遣いを防いだり、電気をきちんと消すこととかもそうです。無意識に通り過ぎているなかで実は気づきの宝ってたくさんある。皆さんみたいにアクションをしてくれた人っていうのはそこでまず知が生まれていて。あとは積み上がっていくんですよね、不思議と。
石 私はSDGsに取り組むにあたってすごい大事にしていることがあって。それは自分が楽しむってことなんです。大学生らしい考え方をすれば、まず失敗も大事だし、海にゴミを拾いに行った時にゴミが無かったら海で遊べばいいとか。そういう風に考えて、楽しめばいいっていうことを伝えていった方が多分SDGsは広がるのかなって思います。
宇 SDGsを楽しむっていうのはある意味最大のキーワードかなと思います。何か良いこと、真面目なこと、意義のあること、ってなると重い。発想の転換や無意識の意識化、まさにそこがポイントになっていくと思っていて、もしSDGsが堅苦しく真面目に見えるのであれば楽しいコンテンツとくっつけてしまえばいい。他人事と自分事の違いって大きいと思うんですけど、SDGsが他人事だったらみんなにとっての自分事の中身、コンテンツに巻き込んじゃえばいいんですよね。
山 イベントとかで実際にSDGsを体験してもらったりして、興味をもったり楽しんでもらえるようにもできたらいいですよね。
日常には気づきの宝がある
--最後に市民の方へメッセージをお願いいたします。
宇 いま約75億人の人が世界にいる中で、世界が一つになればってみんな心のどこかで思いながらも、難しいと思ってしまう人たちが多いと思うんです。けど実はSDGsってその可能性を持っていて、実績もあるわけですよね。じゃあ本当に達成できるのかってなった時に、あまりにも遠すぎるゴールに見えちゃうからみんな取り組みづらいし、行動に移せない。そんなことできたら奇跡だよって誰もが思うんですけど、ちょっと発想を変えてみたら、75億人が全員で同じ方向に向けたらいけるんじゃないかなって。まず共通のゴールに向かって一緒に歩いて行くことがすごく大事で、本当にそれができたら何かすごいわくわくするなって思っています。そのためにやっぱりキーワードになってくるのは楽しむこと。日々の生活の中でSDGsを楽しみの一つに変えてもらえたらすごくいいなって感じました。
後 SDGsって、誰かのことを考えれば多分できると思うんです。先ほど宇田川さんがおっしゃっていたように自分の楽しいことに置き換えるってところで、誰かの立場に立って考えてみる。例えば不平等を無くそうと思ったら、「自分があの人だったらこういうことをされたら嫌だな、じゃあ私はやめよう」とか、そういう単純な考えでも「私いまあの人の立場になって考えられた、自分良いことした」って自分を褒めることにつなげても楽しくなるんじゃないかなって。家とかでも、子どもが水をずっと出しっ放しにしていたら、「水がずっと出てたら誰が困るかな?」とか「水がずっと出ない家はどうしたらいいと思う?」とか、そのようなところを考えてみて、一緒になってやって頂けたらなって思いました。