カシノナガキクイムシ(以下カシナガ)と呼ばれる害虫が媒介する菌が原因となって樹木が集団的に枯れる伝染病「ナラ枯れ」の被害が市内で深刻となっている。市が管理する緑地・公園で被害が確認されたのは2020年度で1122本(2月17日時点)に及び、昨年度の62本から大幅に増加した。市は枯れた樹木の伐採などに必要な経費を3月補正予算に計上し、被害の拡大防止を急ぐ。
ナラ枯れとは正式名称を「ブナ科樹木萎凋病」と呼び、ナラ・シイ・カシなどのブナ科樹木が菌によって急激に枯死する伝染病を指す。原因となるのはラファエレア菌(ナラ菌)と呼ばれるカビの一種で、体長約4ミリほどのカシナガの雌の背中で媒介される。カシナガは6月から8月にかけて樹木に入り込んでナラ菌を増やし、根から水を吸い上げる機能を阻害し樹木を枯らす。ナラ枯れとなった樹木の特徴としては紅葉の時期を前に葉を落とさずに赤黒く枯れることや、カシナガが樹木に潜入した際にできた穴、木屑とカシナガの排泄物が混ざったフラスと呼ばれる粉が木の根元や幹に堆積するといった例が挙げられる。
県内では17年7月に箱根町で初めて確認され、同年9月には市内でも南区上鶴間などでナラ枯れが4本発生。18年度は29本、19年度は62本と年々被害本数が増加しており、今年度は1122本と10倍以上に。これまで被害の中心は南区の「木もれびの森」などの緑地だったが、今年度は公園内の樹木でも初めて確認され、範囲も緑区まで拡大した。
ナラ枯れが急増した点について、市内の緑地を管理する水みどり環境課の小泉貴嗣さんは「原因は不明だが、(薪炭需要の激減を背景とした)燃料革命によって大径木が増え、カシナガが繁殖しやすい環境が整っていることが一因にあるのではないか」と分析する。
伝染病を媒介するカシナガは高齢で幹が太い大径木を好み、ナラ菌を持ち込んだ樹木の中で卵を産み付けて繁殖する。ふ化した幼虫はその中で冬を越し、5月下旬から羽化して飛び出して健全な木に移り住むといった生態を繰り返す。同課によると、多い時は1本の樹木に約2000匹も生息することがあるという。
5月までに伐採
枯木の倒木や落枝による市民生活への影響も懸念される。市内で人的被害は発生していないが、昨年11月に南区麻溝台と西大沼の境にある相模緑道緑地で枯木から車道に横たわるように枝が落ち、車が通行できない状態になる事例が発生した(写真上)。道路沿い、緑地の散策路や住宅近辺の枯木は特に倒木などの危険性が高いことから、市はナラ枯れ対策として3月補正予算に8600万円を計上。新たな被害発生を防ぐため、5月までに伐採を急ぐ方針だ。
伐採の対象となる、ナラ枯れによって枯死した市内の木は現在、市内の緑道で388本、公園で145本。樹木内のカシナガを駆除するため、伐採後は幹を細かく破砕。根株にも残留している可能性もあるため、シートで覆い、密閉して殺菌するくん蒸処理を行う。市はこれから伐採する枯木にはテープを巻いて番号を表記するなどの目印をつけて管理しているため、「ナラ枯れのような樹木を見かけたら、テープやシートをはがさないで」と注意を呼び掛けるほか、同課の渡辺誠治課長は「緑道や公園を歩く際は足元に気を付けるだけでなく、ナラ枯れの木から落枝の危険性がある頭上にも注意してほしい」と警戒を促している。