南橋本に本社を構え、現在、国内外に72拠点、約5000人の従業員を抱える総合物流企業のギオンに勤務し、「従業員やその家族の生活を豊かにすることは一つの社会貢献」と胸を張るのが、採用広報課係長の濱田享子さん(37)だ。
濱田さんは2016年6月に中途入社し、18年から採用担当の仕事を務めている。「入社1年ちょっとの自分に任せてもらえたことがありがたくて。採用の仕事は難しいからこそ面白い」と目を輝かせる。会社説明に求人広告の作成、面接や自社HPの管理など、業務は幅広い。
さらに昨年9月「会社の魅力を広く発信しよう」と、ツイッター「きょうこ@ギオン採用広報」を始めた。仕事の悩み、就職に迷う学生たちへ「採用担当」としてアドバイスを送りながら、会社の魅力も呟く。濱田さんの明るく前向きなアドバイスに「元気が出た」「力をもらった」と感銘する人も多く、次第にツイッターは話題に。そのツイッターの肩書には「癌と戦う採用担当」とある。
物流の魅力を伝えたい
九州出身の濱田さんは16年、熊本地震発生の直前に家族で相模原へ移住。ある時、被災地物資を運ぶ途中で道をふさいでしまったトラックの運転手が非難を浴びている光景を目にした。「ドライバーへの理解が足りないと思った。なぜ非難を浴びなければならないのか」。これを機に、物流業界に興味を抱き、転職を志す。活動を始めてすぐ、ギオンの求人を見つけ応募。「会社が好き、仕事が好きという人が多く、強いエネルギーを感じた。一緒に仕事をしたいと思った」。いざ入社してみると、「刺激は多いが、泣き言が言えない」現実がそこにあった。会社を知った上で成り立つ「広報」や「採用」の仕事。甘やかしてくれる先輩はいなかった。それでも、懸命についていった。「自分で『成長した』と胸を張って言えるよう、頑張るのみだ」。入社して丸5年が経ち、係長を任されるようになった。ラブコールを送り続けた学生が入社した時や「濱田さんがいたから決めた」と言われると、笑みがこぼれる。「自分も成長できたのかな」と少し安堵しつつも「人材採用担当は会社の未来を担う」と、自らの使命に真摯に向き合う。
「私はまだ死なない」
やりがいのある仕事、優しい夫と可愛い娘にも恵まれ、順風満帆な日々。それが、今年1月に一転した。
医者に「胃癌のステージ4、何も治療をしなければ余命半年と告げられたんです」
本人はビックリして足元がふわふわ。夫はショックを受け、娘は寂しがった。それでも「死んじゃう?みたいな感覚はなくて」。悲しんでも無駄、やりたいことをやると心に誓った。「私には生きる目的もある。私はまだ死なない」。すぐに抗がん剤投薬治療を開始し、仕事はリモート勤務を併用。現在も治療をしながら、採用の仕事を続けている。ツイッターには病のこともすぐ公表した。自分への応援コメントも増えたが、目的は「採用広報」。就活情報を発信し、悩み相談も受け付ける。以前と変わらぬ力強い言葉に、弱さは全く感じられない。「部下も育てなくてはいけないし、泣いてなんかいられない」と前を向く。「私には応援してくれる家族も会社もある。その恵まれた環境の中で、人生の楽しみ方、何を優先するか、自分の思い描く生き方をしていきたい」
リモートワークで家事を支えてくれる夫には「感謝の思いが尽きない。その気持ちはちゃんと伝えたい」と目を少し潤ませ、一人娘には「ママは『辛かった』ではなく、『幸せだった』と記憶に残したい」
4月の入社式。凛とした姿で登壇した濱田さんは「成功するまで歩みを止めず挑戦し続けること」「人生を楽しむこと」の2つのメッセージを新入社員に送った。「自分が生きた証をどんどんどんどんつくり続け、自分の手で人生を豊かにしてほしい。ギオンで働く時間は人生そのもの。豊かで有意義でありますように」