淵野辺出身の杉岡太樹(たいき)さん(40)が監督を務め、トランスジェンダー(身体と心の性が一致しないセクシャルマイノリティーの一つ)女性を追ったドキュメンタリー映画『You decide.』(邦題:息子のままで、女子になる)がこのほど、米国ロサンゼルス・ダイバーシティ・フィルムフェスティバル2020でベストドキュメンタリー賞に輝いた。
同フェスティバルは、さまざまな映画製作者や演者、ストーリーを、固定観念や偏見にとらわれずに表現する場として2014年に始まった国際映画祭。今年は新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となり、8月4日から30日まで上映された。杉岡さんの作品は日本映画として初めて同フェスティバルに公式招待されていた。
受賞は映画祭最終盤の8月28日にメールで知った。当初は「撮影の仕事があったから喜ぶ暇もなかった」と杉岡さん。しかし、ライバルたちの作品に目を凝らすと「すばらしい作品がたくさんあった。その中で選ばれたことが本当にうれしかったし、彼らと競って選ばれたという重い責任を感じた」とウィナーとしての実感を強くした。
作品は、就職する直前それまで違和感をもっていた男性性を捨て女性として社会人生活を送ることを決意した畑島楓(サリー楓)さんが、トランスジェンダー女性のビューティーコンテスト「ミス・インターナショナル・クイーン」や講演活動に臨む様子に密着。対外的には自身の活躍でトランスジェンダー全体の可能性を押し広げたいとするものの、一方で父親の期待を受け止め切れなかった息子という自己評価に揺れる楓さんの女性像を作り上げる過程や心の機微を捉えている。
制作のきっかけは、エグゼクティブプロデューサーのスティーブン・ヘインズ氏に楓さんを紹介されたこと。「自分が社会を変える」という強い意志に導かれて女性像を築きあげていく彼女に興味を抱き、撮り進めるうちに作品としての確信を得たという。
トランスジェンダーの女性をテーマに描かれた今回の作品について、多様性が問われている昨今の社会を考えるうえで杉岡さんは、「全員が同じ考えなんてありえない。だけど少なくとも議論や会話、対話が生まれるべき」と述べた。
現在は劇場公開やネット配信に向けて調整を進めており、配給や宣伝などの費用を捻出するためのクラウドファンディングをまもなく開始する予定だという。
映画監督 杉岡太樹さん「なぜ撮るのか」日々自問
2018年9月に撮影を始めた今回の作品は、19年末には完成といえる状態にあった。まずは、LGBTQ(性的少数者を表す言葉の一つ)関連のイベントなどで上映することを計画していたところ、コロナ禍が世界を覆い、作品は世に出る機会を失った。「気分は落ちた。途方に暮れた」。しかし、その一方で杉岡さんは「本当に必要とされるものは、こういう時でも必要とされる」と信じ、「状況はみんな同じ。しかたない」と気持ちを切り替えた。
そんな7月のある日、杉岡さんは1通のメールが届いていることに気づいた。開けてみると、ロサンゼルス・ダイバーシティ・フィルムフェスティバルへ招待するという内容だ。年末に出品していたものの、すっかり頭から離れていたところに思わぬ贈り物。「映画は人の目にふれて初めて完成といえる。自分の中では作り終えているけれど、世の中には存在していないという状況がつらかったのでほっとした」と杉岡さんは明かす。
コロナの影響で映画祭は初のオンライン開催となった。16カ国57作品が招かれ、杉岡さんの作品は日本映画として初の公式招待。そして約1カ月間の開催を経て、映画祭もフィナーレに近づいた8月末、杉岡さんのもとへ朗報は届いた。
必要とされる作品
「ドキュメンタリーには恐ろしい魔力がある」と杉岡さんは言う。「監督はみんなおかしくなる。人々の苦悩を良しとするわけだから。それでもなぜこれを撮るのか。強烈な理由が必要になる。厳しい現実を撮るために毎日自問自答を繰り返している」。今回の作品で、「彼女たちの地位を向上させようなんてことは思っていない」と杉岡さん。しかし、この映画が多様性を考えるきっかけを作りだすことに対しての期待は隠さず、「今回の作品があれば、社会は良い方向に向かう。必要とされる作品だと思う」と言い切る。
相模原で上映望む
最後に地元について聞くと杉岡さんは、「教育に関わりたい。相模原の学校などで作品を上映してほしいし、それこそ多様性に関する授業に呼んでもらえたら。地元に還元できることはしたい。それは価値があることだと思う」と語った。
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