町田市立博物館より41 白いうさぎと黒いうさぎ 学芸員 矢島 律子
町田市立博物館にはいろいろな動物がいます。もちろん、飼っているわけではありません。この前、リス園に散歩に出かけていた「白地青被葡萄栗鼠文瓶(しろじ あおきせ ぶどうりすもん へい)」のように(タウンニュース「町田市立博物館より39」)、当館の美術工芸品には、さまざまな動物をモチーフにした作品があるのです。
龍やキリン、鳳凰などの神獣だけでなく、身のまわりに実在する鳥、犬、猫、象、鹿、牛、りす、かえる、うさぎ等々。筆者が担当している東南アジアの焼きものには動物の形をうまく器にした面白い陶磁器がたくさんあります。
そのなかでも筆者イチオシの名品は2羽のうさぎです。これらは12〜13世紀頃のクメール王国で作られた石灰壺で、1羽は白い土に黄緑がかった透明な釉薬がかかり、もう1羽は黒褐色の釉薬がかかっています。少女時代はもはや霧の彼方、の筆者ですが、戯れにあの名作たちに因んで「しろいうさぎとくろいうさぎ」とか「リサとガスパール」などと呼びかけて癒されてきました。
クメール王国とは、かつてはインドシナ半島の大半を支配し、アンコール・ワットを建立したカンボジアの古代王国です。クメール美術にはインド文化の影響が色濃く、豊満な造形が特徴です。石灰壺というのは、タバコ渡来以前の東南アジアの代表的な嗜好品「キンマ噛み(口臭、虫歯予防のチューインガムみたいなもの)」に使う石灰を入れる容器で、東南アジア各国で個性的な形式があります。クメールでは象、ふくろう、うさぎなど動物形が多いのが特色で、どれもまん丸な目がらんらんとしていて、ちょっと怖いような、かわいいような、精気あふれる作品が多いのです。カンボジアでは象は神の使いですが、うさぎは賢い生き物ということになっています。昔話にうさぎの裁判官の話があるほどです。
さて、くだんのうさぎたちは、耳をピンと立て、前脚を交差して丸くうずくまっており、はちきれそうに太っています。鼻の穴を広げ、口角をクイッと上げて、なにやらモグモグしている様子。お尻にはコロンと丸まった尾がついています。よく見ると、額や頸、腹のてっぺんの開口部の周りや、前後の脚には細かく装飾文が彫りつけられていて、なかなか手が込んでいます。白いうさぎのほうが一回り小さいですが、2羽はとてもよく似ています。セットで作られたわけでもないのですが、期せずしてセット感がかもし出されております。白・黒そろって状態良く残っているところからも、当館の自慢といえる作品たちです。
現在、45年間のご愛顧に感謝し、将来の工芸美術館開設への橋渡しとなる「町田市立博物館最終展―工芸美術の名品―」が開催中ですが、ここには黒いうさぎが出演中です。その愛らしい姿をぜひお楽しみください。白いうさぎのほうは、愛知県陶磁美術館で開催中の「黄金の国と南の海から―町田市立博物館所蔵東南アジア陶磁コレクション―」展に出張してがんばっています。こちらもついでのある方はぜひどうぞ。
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宮司の徒然 其の142町田天満宮 宮司 池田泉5月16日 |
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