市内南町田在住のシテ方金春流(こんぱるりゅう)能楽師、井上貴覚(よしあき)さん(49)が7月17日、国の重要無形文化財(総合指定)の保持者として認定された。入門から丸30年、認定を一つの目標として邁進してきた井上さん。日本の伝統芸能の魅力を多くの人に伝えようと、さまざまな活動を続けている。
約650年前、室町時代初期に観阿弥・世阿弥親子によって大成された舞台芸術の「能」。ユネスコ世界無形文化遺産に日本で最初に登録された伝統芸能だ。演劇、工学技術などの無形の文化的所産で、国にとって歴史上または芸術上価値の高いものである重要無形文化財として1957年に指定された。無形文化財は人間の「わざ」そのものであり、具体的にわざを体得し、高度に体現している者を保持者として認定し、わざの継承を図っている。
認定は一人前の証
追加認定は2、3年に一度行われ、今回保持者として認定を受けたのは全国で51人(国内の保持者数は547人)。現在町田市内在住の能楽師では井上さんが2人目となる。「19歳で入門して30年。保持者認定を受けたことは一人前の能楽師として認められたことでもあり、責任の重さを感じています」と井上さん。大学を目指し勉強していた図書館で偶然手にした一冊が能との出合い。子どものときから職人の技術や伝統といったものにあこがれていたこともあり、1990年に大学入学とともにシテ方金春流能楽師の仙田理芳氏の内弟子として入門。79世家元の金春信高氏、80世家元の金春安明氏に師事した。92年の大宮薪能で主人公に連れられて登場するツレの役で初舞台を踏み、96年の円満井会定例能「箙(えびら)」で初めて主役となるシテを務めた。これまでに能の秘曲「獅子」「乱」「道成寺」「翁」を演じた。98年には流儀の若手4人でグループを結成し幅広い公演や普及活動などを行っている。
歴史をつないで
能楽界もコロナ禍で6月までのほとんどの公演が中止・延期に追い込まれた。稽古すらできないような自粛期間中、井上さんも「文化とは何かをはじめ、さまざまなことを考え、人と人の絆や縁に試練を与える感染症の怖さに思いをはせた」という。舞台に立てず、技芸ができない不安にも追い込まれた。そんなときに飛び込んできた今回の大きなニュース。師匠からも「元々の家業でない外から来た人間がここまで到達したのはすごいこと。どんなにつらくても、あなたが頑張ってきたからなんだよ」と声をかけられた。
改めて、今回の認定について「導いてくれた師匠や家元、そして諸先生方、本当に周りには恵まれた。何よりもずっとサポートしてくれた家族が一番喜んでくれていると思う」と話した。そして歴史の重みと格式のある芸能を次の世代につなげ、保持者としての名に恥じない舞台を務めなければと誓う。
本物を伝え続け
毎年1月には町田市民文学館で親子を対象にした「はじめてのお能体験教室」を開く。参加者は「謡(うたい)」と呼ばれるセリフ回しや、体の動きである「仕舞(しまい)」を学び、伝統芸能の世界を堪能。「能は演劇の一つ。こうした体験会を通して、少しでも能のことを知ってもらえたら」と井上さん。
今後も地域に根差した活動をしていきたいと、9月には高ヶ坂の祥雲寺を会場に「まちだの寺子屋 能楽体験教室」を行う。17日(木)午前11時、25日(金)午後1時。参加費500円。申込みは【電話】042・799・7966井上さんへ。
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