町田天満宮 宮司 池田泉 宮司の徒然 其の143
普通が幸せカモフラージュ
晩春のある日、テーブルの白い皿にゴミのようなものが、いやゴミではない。移動している。わずか3ミリ足らずで小さいうえに、まさにゴミのような外観。目を凝らすと鋏のようなくちばしがあり、同族のアリジゴクに似ている。これはクサカゲロウ科の幼虫だ。巧みにゴミを体に纏って、鳥などの外敵から身を守るためのカモフラージュをする。しかも農作物の害虫コナジラミやアブラムシ、ハダニを食べてくれる肉食の益虫。かつては微細な害虫の駆除にクサカゲロウをわざわざ輸入して利用していたという。やがて成虫となれば、透けた羽根が美しい黄緑色のカゲロウになって、花の蜜や樹液が主食になる。
ガザの若者がミサイルで破壊されたビルの瓦礫を積んで壁を作り、雨除けのシートを張り、乾いた草を乗せてカモフラージュしている。清潔なベッドの上に横になり、テレビに映る惨状を見ている自分は、眠くなれば灯りを落として、朝まで何の不安もなく眠ることができる。こんな日常さえ、ふと贅沢過ぎると感じてしまう。いや、これが普通であるべきで、不意にミサイルが降ってくる日常なんて異常事態だ。人間がクサカゲロウのように外敵から攻撃されないようにカモフラージュして、常に怯えながら過ごすなんてあるべきではないのに、それが戦禍は現在進行形。しかも一般住民は戦っているのではなく、一方的にやられているだけだ。
戦争は国の未来を守るためというが、戦争を始めるのは国民の総意ではない。賢いはずの偉い人たちが始めて、国民を洗脳していく。破壊と殺戮は憎しみを生んで、国民に復讐の気持ちを芽生えさせる。負の連鎖。国は立ち直っても遺恨を消すには何世代もの時間がかかる。我が国もかつて暴れ過ぎた。そして70年経過しても遺恨を消せない国がある。恥ずかしい現実だ。
人間は孤独ではない。文明があり、知恵があり、分別がある。なのに同族で殺し合う。だから、擬態して小さくて弱い自分を守り、やがて美しい羽根で飛ぶことができるようになるクサカゲロウの生き方も、悪くないなと感じることもある。私が平穏でのんびりした生活を望む、普通の人間だからだろう。
|
|
宮司の徒然 其の142町田天満宮 宮司 池田泉5月16日 |
|
|
|