町田天満宮 宮司 池田泉 宮司の徒然 其の149
彷徨う日本語
五月の節句に健康長寿を願って湯船に浮かべる「菖蒲(しょうぶ)」はイモ科。花は茎の途中にガマの穂を小さくしたような地味な花穂をつける。葉の成分に効能があり、香りも良いのでアロマ効果もある。一方菖蒲園の菖蒲は「花菖蒲」。アヤメ科で湯に浮かべても効能はなく、香りも良くない。ところが、おそらく葉がよく似ているというだけの理由で花菖蒲と名付けられた。幼い頃から、5月5日には父が庭で刈った菖蒲が湯に浮かべられていたが、ずっと花はいつ咲くのだろうかと思っていた。何年経っても咲かないのが当たり前だと知ったのは社会人になってからだった。ここで言いたいのはどちらにも「菖蒲」という字を充てたこと。日本語が難解なのはこれを「あやめ」とも読むこと。あやめは綾目とも書くように、花弁の付け根に網目状の模様がある。しかしショウブやカキツバタには模様がない。なのにこの仲間は総じてアヤメと呼ばれてしまう。同様のことは「紅葉(もみじ)」にも言える。モミジとカエデの区別がしばしば話題になるが、そもそもモミジはカエデ属の一部。だから全てをカエデと言って間違いではない。〇〇モミジという固有名があればモミジだというだけ。ところがこれも「紅葉(こうよう)」という自然現象がややこしくする。「紅葉の紅葉」と書いたらあなたはどう読むか? 七草粥の一つ「ホトケノザ」は二種類ある。一つは丈も大きくて目立つ雑草で、無毒だが美味しくはない。粥に入れるホトケノザは小鬼田平子(コオニタビラコ)のことで、新暦正月の頃には地面に貼りついていて素人にはなかなか見つけられない。旧暦の行事を新暦にあてはめると、凡そ一ヶ月早いのだから七草は揃わないのは当たり前。菖蒲も七草も今は採るものではなく買う物になっているから、生産者を信じていれば安心だが、日本の良き風習なのだから、本当の菖蒲やホトケノザ知っておいても損はないと思う。
日本人は残念ながら混乱を招くまでに言葉遊びをしてしまい、海外の言語も吸収して異形の物に変化しつつある。加えて合理性を好むあまりに氾濫する略号、AV AKB SKE DV IS TPP ATMetc…、文字の読み方を無視したキラキラネーム、難解なパソコン用語、若者が発信する略語に造語、パズドラ、外タレ、スマホ、ガラケー、クソゲー、艦コレ、アキバ、ボイパ、壁ドン、アゴくい、エモい、バズる、…。全てが混じりあって破壊が止まらない。かつて一流企業にいらっしゃったおじさまが、「そのデータをハードにしてくれない?」などとのたまうと「印刷してくれ」って言えんのかー!と心で叫ぶ。
守るべき日本語や美しい日本語は、文学作品や辞書の中にしか存在しなくなるのもそう遠くはないのかも。日本の伝統や文化、正しい言語はきっちり遺しておきたい。日本を訪れた外国人が間違った日本語を土産にしてほしくない。
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