市では新たに10月22日から「介護に関する入門的研修」を開始した。都内では初の取り組みで、未経験者にも介護に興味を持ってもらう試み。深刻とされる介護業界の人手不足解消につながるのか。市内の事業者に話を聞いた。
「他事業所との会議でも、話題に上がるのは人手不足の話ばかり」とある介護事業所管理者は愚痴をこぼす。
67%で「不足」
市のアンケートによると、市内介護事業者の67%で職員数が不足しているという(428事業所が回答)。中でも訪問介護は80%が不足と回答しており、業種による差も大きいようだ。
同研修は、今年3月に厚労省が各自治体に促し始めたもの。背景には2025年に介護人材が34万人不足するという同省の見通しがある。
研修は、定年退職者や子育てがひと段落した人の受講を想定しており、介護未経験者が働く際の不安を払しょくしてもらう狙いがある。研修では、介護保険制度の概要や介護における安全な体の動かし方などを学ぶ(基本的に21時間)。
ある事業所の関係者は「働きに来てもらうためには賃金体系の見直しが必要。家族を養うことも難しい」と話す。また、別の事業所では「そもそも就職希望者が少ないことが問題。中学・高校の授業に介護を取り入れてもらうなど、踏み込んだ対策が必要」と抜本的な改革をのぞむ。一方「研修費が行政から助成されるとはいえ、事業者が一時的に立て替えなくてはいけないので負担はある。とはいえ、スキルアップにつながることは、利用者のためにもなる」と前向きにとらえる声もある。
「正しくPRを」
特養偕楽園ホームなどを運営する社会福祉法人「一誠会」(宮下町)の水野敬生常務理事は「喫緊の人材不足を解消する手段の一つとなる」と一定の評価をする。とはいえ「元気な高齢者にも介護の道を選んでもらおうという考えのようだが、夜勤ともなれば1人で数十人の入居者をみることになる。はたして現実的かどうか。『介護は誰でもできる仕事』と思われてしまうのも困る。正しくPRしてもらえれば」と話す。根源的な課題としては「介護報酬が低い」という点を挙げる。「物価や地代を考えると、ほぼ全国一律では都内の業者は経営が不利な面もある」。同法人は9月に新しい施設を開設したばかり。スタッフは充足しているという。「ホームページでできるだけ情報公開することで安心してもらうなどの工夫をしてきた。地域からどれだけ信頼してもらえるかをベースにしないと集まらない時代でもある」としている。
市の担当者は「裾野を広げないと人材不足は解消できない」と研修の意義を話している。