狭間町に住む星野厚子さん(82)が八王子に伝わる郷土料理を言い伝えている。「それらは時短料理として、現在忙しい毎日をおくる皆さんにも参考にしてもらえればと思っているんです」。こう星野さんは話している。
「八王子の郷土料理を調べてくれませんか」――。星野さんが市内大学で栄養学などを教えていたおよそ15年前、市民団体から地域活性化につなげたいからとそう依頼されたことがきっかけになったのだという。「そう言えば、出身地の岩手県盛岡には多くの郷土料理があるのに八王子では聞いたことがないなぁ」と当時、定年間近だった星野さんの好奇心が刺激された。文献を読み漁り、市内の農家や寺院などに赴いては、その歴史について聞いてまわったのだという。
そこで見つけたのが、織物業が盛んだった昭和初期の「八王子の食」。当時の八王子は田んぼが少なかったことから麦など畑で採れる作物をメインとする料理が主流となっていた。また、織物工場で働くため、山梨の上野原や神奈川の相模原市から八王子へ通う女工たちがそれぞれの地域の「特産品」を弁当として持参し、職場で見せ合ったことが「八王子の食」に影響を及ぼしていたのだという。「『たまじ』と呼ばれる小さなじゃがいもを醤油や味噌で煮詰めた料理や小麦からつくる『すいとん』などが当時よく食べられていたようです。これらは山梨の方の影響を受けていたのではないでしょうか。すいとんと山梨名物の『ほうとう』は基本的につくり方が同じですからね」と星野さんは笑う。一方で、足りない動物性の栄養を得るためにイワナやタニシを採って食べていた地域も八王子にはあったのだという。「たまじの料理などと動物性の組み合わせは本当に栄養バランスが良いんですよ」
郷土料理を調べ始めて以来、星野さんは市内の様々なイベントに呼ばれては自ら調べた郷土料理史について語ってきた。八王子の食の伝統を地域に伝えていきたいという思いのほか、時短食でもある当時の食事を現代の忙しい日々をおくる人たちに薦めたいという気持ちがあるのだという。その時短料理の一つが”かてめし”と呼ばれるいわゆるまぜご飯。「昔の農家の奥さんなどは米や野菜、鶏肉などをひとまとめにおにぎりにしていた。今なら炊飯器があるのでより早くかてめしをつくることができると思います。忙し方々に参考にしてもらいたいんですよね」。そして、来月にも講座を予定していると言い、「ぜひ開催できることを祈っています」