神奈川県全域・東京多摩地域の地域情報紙

  • search
  • LINE
  • MailBan
  • X
  • Facebook
  • RSS
八王子版 公開:2023年10月19日 エリアトップへ

―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空 第1回 作者/前野 博

公開:2023年10月19日

  • X
  • LINE
  • hatena

1.八王子空襲の夜 

 「キミちゃん、ここは危険だわ。もっと向こうの山の方へ逃げよう」

 昭和二十年、八月二日になったばかりの深夜のことであった。八王子の上空は、アメリカ軍B29爆撃機の大編隊に覆われた。突如として、焼夷弾が雨霰の如くに、八王子の町に降り注いだ。町は瞬く間に火に包まれた。爆撃はしつように繰り返され、三時間近くも続き、市街地は全くの火の海と化したのであった。

 隆の母、大野キミは、その時、二十三歳であった。

 「キミちゃん、こっちへ来なさい。ここなら大丈夫よ!」

 隣の家のおばさんが、防空壕の入り口から顔を出し手を振って、キミを招いていた。

 「由江ちゃん、隣のおばさんが呼んでいる。あそこへ行こう」

 キミの体はガタガタと震えていた。

 「町の中にいては、駄目よ! あの山まで逃げるのよ。空を見て!」

 由江が空を指差した。

 B29爆撃機から投下された照明弾により、八王子の町も空も明るく見通せることができた。爆音を響かせ、数え切れない程のB29爆撃機が空を覆いつくしていた。

 ザッザッザッーと凄い音を立てて、空から焼夷弾が降ってくる。爆発と同時に猛烈な炎が飛び散った。べたつく粘液が火を噴きながら四方八方の家を炎に包んでいった。ガソリンの臭いが充満していた。更に、B29の爆撃は連続した。

 落下する焼夷弾が空の中途でパッと分解すると、子どものような小型焼夷弾が無数に飛び出し、バラバラと地上へ向かって突進してきた。

 この小型焼夷弾は、直径五センチ長さ三十五センチほどの六角棒状のM50というテルミット・マグネシュウム焼夷弾であった。親のM17集束焼夷弾が空中で分解すると、内蔵された百十本のM50焼夷弾が落下を開始する。M50焼夷弾の後尾には、垂直に落下するようバランスを取るために、リボンが取り付けられていた。

〈つづく〉

◇このコーナーでは、揺籃社(追分町)から出版された前野博著「キミ達の青い空」を不定期連載しています。

八王子版のコラム最新6

―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空

―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空

第12回 作者/前野 博

9月5日

―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空

―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空

第11回 作者/前野 博

8月1日

―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空

―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空

第10回 作者/前野 博

7月4日

―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空

―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空

第9回 作者/前野 博

6月13日

創価女子短大の場合

学びの先端って、どこ?

創価女子短大の場合

第12回(最終回) 変わること、変わらないこと

6月6日

創価女子短大の場合

学びの先端って、どこ?

創価女子短大の場合

第11回 最近の若者は

5月9日

あっとほーむデスク

  • 5月30日0:00更新

  • 4月18日0:00更新

  • 12月14日0:00更新

八王子版のあっとほーむデスク一覧へ

コラム一覧へ

八王子版のコラム一覧へ

バックナンバー最新号:2024年9月7日号

お問い合わせ

外部リンク

Twitter

Facebook