―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空 第9回 作者/前野 博
(前回からのつづき)
「施設内もくまなく探したのですが、発見できませんでした。施設の外も今探していますが、まだ見つかりません。ひょっとすると、隆様が、お母様をおうちへ連れて帰ったのではないかと、思いまして」
施設長の太田の声であった。
「まさか、施設の方に黙って、そんなことするはずはありませんよ。
それで、どういうことなんですか?
母がいないんですか?」
「はぁー、キミさんが、いないんですよ」
「とりあえず、今すぐ、そちらへ向かいます。とにかく、母を探してください」
キミのいる介護施設は、隆の家からそう遠くはない。自転車で急げば、十五分位で着く。
隆は妻に連絡しようと思ったが、朗読の会の最中だから、携帯の電源は切っているだろうと、しないでおいた。家から出た時は、慌てていたが、人通りが少しある道路に出て、自転車のスピードを緩めた。辺りをじっと見た。ひょっとして、キミが歩いていないかと、姿を探した。施設の部屋では、やっと歩いている状態に見えた。
でも分からない。キミは以前家にいる時、何度か徘徊したことがあった。かなり遠くの方まで行ってしまったこともある。その時より、体力が衰えているといっても、昔から突然物凄い力を発揮することがあった母である。ひょっとして、施設から遠く離れた、この商店街を歩いている可能性もあると、隆は気づいた。
―そうだ! 母が住んでいた家へ寄ってみよう。まさかとは思うが、念のためだ!
この商店街の先の駅に近い所に、キミの家はある。キミが施設へ入るまで、隆が一緒に寝泊まりしていた家である。以前は、この家の一階で商売をして、生計を立てていた。その後、隆の父が死んでから、一階を洋品店に貸し、二階をキミの住居としていた。二階は、キミが施設へ移る前と同じ状態である。
〈つづく〉
◇このコーナーでは、揺籃社(追分町)から出版された前野博著「キミ達の青い空」を不定期連載しています。
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