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八王子版 公開:2024年8月1日 エリアトップへ

―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空 第11回 作者/前野 博

公開:2024年8月1日

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―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空

 (前回からのつづき)

 隆は、更に驚いた。

 母は、誰かに付き添われ、この家に帰ってきたのだ。

 それは、誰なのだろうか? 隆は混乱した。

 大場さんが、隆を不思議そうな顔をして見ていた。

 「すいません。とにかく二階へ行ってみます」

 

 二階は、どの部屋も灯りが点いており、明るかった。キミが、応接間のソファに座っているのが、目に入った。隆が近づくと、母は瞑っていた目を開けた。

 「隆、お腹が空いた。ご飯を食べたい」

 確かに夕食の時間になっていた。

 「母さん、困るじゃあないか? 勝手に、施設を抜け出したりして。みんな、心配して、大変だったんだから」

 隆は、声を荒げた。でも、キミに聞こえているのか分からない。

 「お腹が減ったと言っているでしょ。ご飯をちょうだいな。たくさんよ。二人分よ。由江ちゃんと一緒に食べるんだから。隆、早くして」

 キミは、そう言いながら、ソファに体を横たえた。本当に三キロの道を歩いて来たのだろうか? 疲れがどっと出たみたいで、キミは横になり、目を瞑った。

 「駄目だよ、こんな所に寝ては。今、向こうの部屋に布団を敷くから、ここで寝ては駄目だよ」

 隆も次第に冷静になってきた。とにもかくにも、キミがこの家にいてくれたことに感謝しなければいけない。一件落着である。まずは、部屋へ連れて行って、キミを布団に寝かせることであった。

 「太田さん、母がいました。母は住んでいた家に戻って来ていました。すいません、ご迷惑をかけました」

 隆は、施設に連絡した。謝るのは、施設長の太田の方だと思うが、まあ、仕方ない。これからまだ母が世話になるのだから......。暫くしたら、車を出して、迎えに行くと太田は言っていた。

 「さあ、母さん、起きて。布団に入って寝た方がいい」  〈つづく〉

◇このコーナーでは、揺籃社(追分町)から出版された前野博著「キミ達の青い空」を不定期連載しています。

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