―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空 第14回 作者/前野 博
(前回からのつづき)
村上が、子ども達を呼び集めた。
「こんにちは。よろしくお願いします」
広場一杯に子ども達の声が響いた。
品川区の南原国民学校の三年生から六年生までの児童で、元八王子村に集団疎開している百七十人が、この広場に集まっていた。元八王子村では、隣保館に三十名、ほかに百四十名が、寺院、公民館に分散して生活を送っていた。この他に、二百人が恩方村に集団疎開をしていた。
「さあ、三年生から並んで、順番に頭をきれいにしてもらおう。みんな、お姉さん達の言うことを聞いて、行儀良く座っているんだぞ」
村上の指示で、広場の端の木の下に散髪する場所が準備された。
「いくつなの?」
「九歳!」
キミは、前に座った女の子の髪を櫛で梳いた。やはり、シラミがいるようだ。目の細かい櫛で何度も梳くと、随分シラミの卵が少なくなった。でき得る限り髪を短くしたおかっぱ頭に仕上げる。シラミ駆除の洗剤を使って、頭をゴシゴシと洗う。一人の散髪に、かなり時間が掛かった。シラミとノミは、衛生、栄養状態の良くない集団疎開の共同生活では、仕方のないものであった。
女の子がキミの手に触れ、頬ずりした。親元から離れて、三ヶ月が過ぎているはずである。
「お母さん、面会に来てくれた?」
キミは、女の子を抱き寄せた。まだまだ、幼い子どもであった。母親が恋しいのだろうし、母親もこの子のことが心配でならないだろうと、キミは思った。
「来てくれたわ。たくさん食べ物を持って来てくれた。でも、すぐ帰ったの。また来るから、いい子でいるのよと言って。もうすぐ、お母さんが来ると思うわ」
女の子はキミの胸の中から離れると、遠くにあるバスの停留所の方を見た。
「えつ子、さあ、次の人と交代しなさい」
〈つづく〉
◇このコーナーでは、揺籃社(追分町)から出版された前野博著「キミ達の青い空」を不定期連載しています。
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