―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空 第16回 作者/前野 博
(前回からのつづき)
村上の運んできてくれたお茶を飲みながら、キミは村上の気持ちはよく分かると思った。
「ねえ、おばさん達、今度、いつ来るの?」
男の子が傍に立ち、キミの袖を引っ張った。
「こら、おばさんとは、失礼だろう。恵介、お姉さんと呼びなさい」
村上の指が、恵介の頭を弾いた。
恵介の髪は、かなり伸びていた。今日、散髪をしてやれた子ども達は、全体の三分の一ほどであった。
「わたし達が今度来るのは、いつになるのかしら?」
キミは由江の方を見た。
「今月の勤労奉仕の予定は、いっぱいよ。来月になるか、それも、理容組合で決めることだから、何とも言えないわね」
戦局が厳しくなるに連れて、若い娘達は勤労動員され、勤労奉仕に出る日が多くなっていた。月一回が今は週三回になっていた。キミ達は、散髪の仕事が主であったが、山へ入っての薪拾いや、軍需工場の手伝いにも出かけて行った。
「来月になっちゃうのか!」
恵介ががっかりした声を上げた。
「そんながっかりすることはないさ。恵介の頭は、明日早速、先生が散髪して、きれいにしてやる」
村上が言った。子ども達の散髪は、通常、先生や寮母さんによって行われていた。専門の理容師と違って、上手ではない。虎刈りだったり、髪が揃っていなかったりと、子ども達からは評判が悪かった。
「先生の散髪は、痛いから、嫌だよ」
恵介が頬を膨らませた。
西の山並みが夕焼けに染まり始めていたが、キミの頭の上の空はまだ青かった。空気が冷たくなってきた。キミは空を見上げ、静かで、とてもきれいだと思った。このところ、空襲警報が発令されることが多くなっていた。
〈つづく〉
◇このコーナーでは、揺籃社(追分町)から出版された前野博著「キミ達の青い空」を不定期連載しています。
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