―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空 第19回 作者/前野 博
(前回からのつづき)
洋品店の今の家賃から、キミの月々の介護施設料金を捻出していた。隆達夫婦は、年金と貯蓄を切り崩しながらの生活であった。家賃の値下げになれば、隆達の生活を相当に切り詰めなければ、キミの施設暮らしは維持できない。その時は、キミを自分の家に引き取ればいいと兄弟達は言うかもしれない。
だが、それは無理であった。認知症の進んだキミを再び自分で世話をするなど、隆には気力も体力もすでになかった。妻の咲子もご免だと言っているし、その時は駅前通りの家を処分するべきだと、主張していた。処分と言っても、そう簡単に行くはずはない。面倒なことが山積みしている。
キミは気持ち良さそうに寝ていた。隆は、キミのベッドの下に布団を敷いたが、まだ寝るには早いと隣の部屋でテレビを見ていた。駅前通りから、時々、酔っ払いの騒ぐ声が聞こえてきた。以前の駅前通りは、もっと騒々しかった。二十四時間営業をしている、コンビニ、カラオケ、インターネットカフェ、ファミレスと、並んでいるが、客の入りは今ひとつであった。客引きだけが増えている感じであった。
「報道ステーション」が終わった。
「わかったわ、帰るわよ。傍へ寄らないで、あっちへ行っておくれ!」
突然、キミの叫び声が聞こえた。
隆は、テレビを消した。
―やっぱり、母は、落ち着いては寝ないだろうな。まあ、いいや。私も、寝ようとすれば、苛立つだけだ。そのつもりで、母の部屋で、横になっていればいい。
「母さん、どうした?」
「ほらっ、あそこにお父さんがいるだろう」
キミはベッドに腰かけ、部屋の隅にある仏壇を指差した。
「そうだよ、父さんは、あそこにいるよ」
そこには、父親の位牌がある。
〈つづく〉
◇このコーナーでは、揺籃社(追分町)から出版された前野博著「キミ達の青い空」を不定期連載しています。
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