車いすのタイヤを操り、瞬時に球の到達点に先回り。大きく体をのけぞらせ、スマッシュを決める--。ここ、松が谷団地内のコミュニティ拠点「まつまる」にある「松が谷卓球場」は、車いす対応のバリアフリー台があり、愛好者だけでなくパラ五輪を目指すアスリートも日夜集う。
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その一人、七野一輝さん(24)は先日、グリーンアリーナ神戸で行われた「全日本オープンパラ卓球選手権大会(肢体の部)」の個人戦・車いす使用の部で優勝を飾った。生まれつき両足に障害があり、もともと「クラッチ」と呼ばれる杖をついて競技を行う「立位クラス」で戦っていた七野さん。クラッチを支えるのに左手を使うため、サーブのときはラケットを持つ右手で球をトスしていた。さらに自由のきかない左手付近を狙われることも多く、思うようにプレーできないことがあった。
中学から卓球を始め、2016年からはパラ卓球の国際大会に出場。実力は備えているものの、21年には東京パラリンピックの最終予選決勝で敗れ、代表選手に選ばれなかった苦い思い出がある。そんな矢先の昨年4月、練習中に転倒。もともと外れやすかった股関節がさらに外れやすくなってしまった。このまま立位で競技するには転倒などのリスクが大きい。七野さん自身、障害の状況に応じてクラスを変えることは念頭に入れていたが、このけがをきっかけに車いすの部に転向することを決断。転機を前向きにとらえ、「(全ては)大好きな卓球を続けるため」と、立位で習得した技術を車いすでも発揮できるよう徹底的に体に叩き込んでいった。
松が谷卓球場の運営者で、21年度までパラ卓球(肢体不自由者)の日本代表チームの監督を務めていた新井卓将さんは「立位から車いすに転向、というと一般的には動けなくなる印象があるが、七野は左手が自由になった分、逆に動ける幅が広がった」と分析する。その読みどおり、全日本の直前、同じ3月に行われたイタリアとスペインでのオープン戦では、「転向後すぐのスタートダッシュが肝心だと思った」という気合いを見せつけ、個人の部で両方優勝という偉業を成し遂げた。
その上での、今回の全日本個人の部優勝。大舞台で3優勝を収めた若き挑戦者の次なる目標は、24年のパリパラリンピック。前回の雪辱を胸に、全力を出し切るのみだ。
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